91「論語」を題材として「言語文化」から「古典探究」へ─江戸期の日本漢文を活用した学びの分析と提言─指導要領」にいう「必要に応じて,近代以降の文語文や漢詩,古典についての評論文などを用いること」に相当する。教員養成課程の学習方法がそのまま高等学校で生かせるわけではないが、生徒の実態を踏まえて授業で活用していくために教員が持つべき資質・能力となるだろう。7.若い世代と考える「古典」教育の未来以上のように、前章まで「言語文化」と「古典探究」について実際に採録されている教材を基に、言語活動の現状分析や継続・発展性について論じてきた。その上で、義務教育以来の定番教材である『論語』に対する主体的・探究的な言語活動の可能性を提言したが、これらは全て授業者側の視点に立ったものである。では学習者である世代は現状をどのように捉え、どのような学びを望んでいるのか。そこで本章では、現役の高校生や大学生・大学院生及び若手研究者や教員の視点にも目を向け、彼らが考える「自分たちの未来のために役立つ漢文」教育、ひいては古典教育について述べてみたい。⑴ 期待される若い世代2019年に告示された今次改訂の「高等学校学習指導要領」では、「予測が困難な時代」、「予測困難な社会」、「未知の状況」という表現が、第一節の「改訂の経緯及び基本方針」だけでも計4回用いられているという42。そもそも予測できない未来に必要な資質・能力とはどのようなものなのか。このような問題意識を契機に、今後の「漢文」教育についても若い世代の視点を取り入れなければならないと考えるに至った。手始めに、2017年当時、筆者が非常勤講師として「漢文学」や「国語科教育法」の授業を担当していた大学生を対象に、高校時代までに受けてきた「漢文」教育や、今後期待する「漢文」教育についてアンケートを実施した。 その結果、印象付けられたのは、学生は将来役立つ授業を期待すると同時に、今現在も面白くて役に立つ授業を望んでいるということであった。⑵ 高校生が理想とする古典授業面白くて役に立つというのは、「主体的・探究的で深い学び」に繋がっていく。それを目指して学生と試行錯誤している際に出会ったのが、「生徒による理想の古典授業を考える」という高校生が取り組んだ“卒業研究”である。当該研究は「茗溪学園中学校高等学校」(茨城県つくば市)が実践している個人課題研究の一つである。同校は創立以来44年間にわたり、“17歳の卒論”として全卒業生が個人課題研究に取り組んできた。当該研究は令和5年度の「個人課題研究発表会」 で発表されたもので、筆者も研究発表会に参加する機会を得た。なお、この生徒は将来古典の教員を目指しているとのことであった。当該研究では、授業案を作成し、模擬授業を行ったうえで、理想の古典授業を提案している。しかも、効果的な授業を実践するために事前にアンケート調査を行っていた。さらには、模擬授業後には授業改善のためのアンケートも実施していたのである。これらの点は、高校の国語教員経験者として、また、大学の教員養成課程担当者として注目に値するものであった。模擬授業では「古典探究」で設定し、教材は『徒然草』第137段、「花は盛りに」で知られる作品を扱っている。次にその概要を示す。まず、事前アンケートで生徒が古典の授業に何を求めているかを調査した。その結果、多くの
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