77「論語」を題材として「言語文化」から「古典探究」へ─江戸期の日本漢文を活用した学びの分析と提言─変遷過程で「日本漢文」は、中国古典と日本文化の橋渡し的な役割を果たしていると考える。ここにも「日本漢文」に着目する意義があるのである。これらのことから、教科書教材の調査対象として、現行最新の「言語文化」の教科書(9社17点)6と「古典探究」の教科書(9社22点)7を用いることにする。3.授業提言の対象本論文では「日本漢文」を中心とした授業を提言する対象として、大学・大学院の教員養成課程の「漢文学」等を想定する。中等教育の教科「国語」であるにもかかわらず、高等教育機関の教員養成課程を対象とする理由は主として次の二つである。その一つ目は、高校生に古典の主体的・探究的学習をさせるのならば、まず教員自身がそれを体験する必要があるからである。前述のように、平成30年告示の「学習指導要領」では古典の学習意欲の低下という現状に取り組むため、古典の「主体的・探究的な学習」を目標として掲げている。その具体的な指導法として、「比べ読み」等の言語活動が増加する傾向が見られるが、限られた授業時間の中で効果的な比べ読みをするためには教員側に古典資料を読み解き、分析する能力が求められる。比べ読み教材の中には、古文と漢文の資料や現代文と漢文の資料を比較するような分野横断的なものも見られ、全ての国語科教員に漢文の素養が必要となっている。ところが、筆者が担当している教員養成課程の「漢文学」履修者の中には、高等学校までに漢文を学ぶ機会が少なかったこともあり漢文に対して苦手意識を持つ者が多い。「なきにしもあらず」や「あしからず」等の慣用的な言い回しも馴染みの薄いものとなっている。そのため大学の授業でも、漢文訓読文(書き下し文)に慣れることから始める。そもそも書き下し文は特殊な文章で、見た目は日本語の文章なのだが、そこに使われている単語は古代中国語という特徴がある。学生は、まずその特徴を理解し、そのうえで、或いは同時進行的に白文(原文)に触れていくことになる。学校現場では教材研究の時間確保も困難であることも考慮すると、効果的な言語活動を実勢するためには大学・大学院で漢文の言い回しに慣れ、漢文資料に触れる経験が必須なのである。二つ目の理由として、2024年現在の大学生にとって、2022年度以降実施された「言語文化」や「古典探究」は経験していない科目であるということが挙げられる。そのため、将来、学校現場で古典の「主体的・探究的」な授業を構築するためにも、教員養成課程でそれに繋がる言語活動を実践しておくことが不可欠なのである。以上のことから、本論文で提言する対象は大学・大学院の教員養成課程「漢文学」等の授業とする。4.「論語」の教材としての可能性⑴ なぜ「論語」か「日本漢文」とそれに関わる中国古典に焦点を当てるのは前述のとおりだが、本論文では『論語』の注釈書に焦点を絞って論じていく。それは、筆者が所属している「古典探究」の研究部会で研究協議を重ねる際、重複している教材の扱い方が問題視されたからである。これに関して研究部会では、重複しているからこそ既知の教材として言語活動が効果的に行えるのではないかという方向で議論が進んだ。
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