教育評論第39巻第1号
82/160

76早稲田教育評論 第 39 巻第1号しかし筆者が所属する「古典探究」の研究部会の協議では、現職教員から、実際に授業をやってみると「言語文化」と「古典探究」での取り入れ方の違いが判然としないや、「比べ読み」は授業時間数との兼ね合いから複数の資料を解析するのは難しいという声が上がった。とりわけ「古典探究」では、教材内容の難化や比較資料の多さから生徒が主体的に古典を探究する学習に課題が認められた。現状では古典を主体的に学習する能力を育成しているのか、それとも情報処理能力を育成しているのか、育成すべき資質・能力が曖昧であるとの指摘もあった。結果的には限られた時間でそれらの双方に関わることになろうが、それには教員側の古典資料を解析し、情報を精選して提示する能力が求められる。今後、この傾向はますます顕著になるだろう。そこで、本論文では「言語文化」、「古典探究」それぞれの科目の特徴を明らかにし、大学・大学院の教員養成課程の「漢文学」の授業を想定して効果的な言語活動を提言したい。1.研究の目的・意義国際化や情報化が急速に進展する中で、古典の授業でも我が国と外国の文化の関係を学ぶことが重要視されている。「高等学校学習指導要領 国語」でも、日本文化や日本の言語文化と外国の文化との関係について理解することが求められている。特に「古典探究」では中国の文化との関係を重視する3。これを踏まえて、本論文では漢文教材に着目して現在に繋がる日本の言語文化への関心を拓き、生徒が主体的に探究する授業の在り方を論じる。漢文は「東アジアのラテン語」と言われるように、古来、東アジア共通の書記言語として文化交流の手段となってきた。したがって、東アジアにおける日本の文化という視点を持つためにも、「古典探究」における漢文教材の可能性を研究する意義は大きいと考える。2.研究の方法・対象教材平成30年告示の「学習指導要領」は、漢文4教育に関して「言語文化」と「古典探究」の教材として「日本漢文」を適切に活用するよう明示している。「学習指導要領」で定義する「日本漢文」とは、「上代以降、近世に至るまでの間に日本人がつくった漢詩と漢文」5のことである。これを踏まえて、本論文では研究対象として漢学が最も隆盛した江戸期の「日本漢文」と、それにかかわる中国古典に焦点を当てる。「日本漢文」を取り上げるのは、時代の隔たりはあるものの、文化風土は共有している部分が多いため、生徒が作品に対してイメージを持ちやすいという利点があるからである。また、従来、高等学校までの漢文の授業といえば、生徒は中国古典を学ぶ場と思い込んでおり、そのため「なぜ、国語で外国の古典を学ぶのか意味がわからない」という疑問を抱きがちである。このことが古典嫌いの一因ともなっている。中国古典を学ぶ場としている点においては教員側にもその傾向は認められるのではないだろうか。たとえその意識がなかったとしても、教科書に採録されている漢文が中国古典作品に偏重している現状では、日本の言語文化としての漢文を学ぶ場とは認識し難い。新設された「言語文化」は、中国古典である漢文を、日本文化がどのように受容して独自の文化に発展させ、現代の言語生活に繋げてきたかを学ぶ科目である。その

元のページ  ../index.html#82

このブックを見る