教育評論第39巻第1号
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キーワード: 言語文化、古典探究、国語科教員養成課程、日本漢文、言語活動、比べ読み、「論語」の注釈書、江戸期の儒者【要 旨】本論文では、「古典探究」の教材研究をテーマとする研究部会の協議内容を踏まえ、「古典探究」の漢文教材の扱い方及び「言語文化」から「古典探究」への継続・発展的な学びについて論じる。さらに、「日本漢文」における「主体的・探究的」な学習のための教材を提言する。提言対象は、大学・大学院の教員養成課程「漢文学」の授業である。教員養成課程を対象とする理由は二つある。一つは、「言語文化」と「古典探究」が平成30年告示の「学習指導要領」で新設された科目であるため、学生自身が未経験と想定されるからである。二つ目は、これらの科目が古典を「主体的・探究的」に学習することを目標に掲げているため、指導する側に漢文関連資料を調査・分析する力が求められるからである。まず、古典で「主体的・探究的」な学習を実現できるかという問題提起をし、第1・2章で漢文の授業における言語活動の研究方法について述べた。次に、第3章で「主体的・探究的」学習の教材として『論語』を扱う意義を述べた。『論語』は、日中両国の学者による考証が盛んでその注釈書も豊富であり、入手し易い資料も多い。そのため学生自身が資料を主体的・探究的に学習する体験ができるという利点を有するのである。第3章〜5章では、『論語』教材に関する言語活動を分析し、「言語文化」から「古典探究」への継続・発展に資する授業を検討した。ここでは『論語』やその注釈書に関する教材研究を示しつつ言語活動を提言している。最後の第6章では、前章までで検証し、提言してきた授業は教員側の視点であることから、未来の古典教育のためには高校生や教員養成課程の学生の視点等、若い世代の視点を取り入れることの重要性について述べた。さらに、若い世代による授業の実践例として高校生の“卒業研究“を紹介し、古典を「自分ごと」として捉える等、効果的な言語活動に言及した。はじめに―「漢文」で主体的・探究的な学びは可能か―平成30年告示の「学習指導要領」に基づく国語の教科用図書(以下、教科書とする)を使用した授業が、「言語文化」は2022年4月から、「古典探究」は2023年4月から実施されている。今次の改訂では、「中央教育審議会答申(平成28年12月)」で課題となった「教材への依存度が高く、主体的な言語活動が軽視」されていることや「古典に対する学習意欲が低いこと」1を受けて科目編成が大きく改変されたが、現状はどうであろうか。採録されている教材を全体的にみると採録教材自体に大きな変化はないが、「比べ読み」等の言語活動の充実が図られていると言える。授業においても、生徒が各科目で育成を目指す資質・能力2を獲得できるよう、学校現場における言語活動の取り入れ方の研究・実践が行われている。林  教子75「論語」を題材として「言語文化」から「古典探究」へ─江戸期の日本漢文を活用した学びの分析と提言―

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