30早稲田教育評論 第 39 巻第1号がかりとして、実際に観察した授業の流れをふまえつつ、学習ノートがどのような構造的特徴をそなえているのかを検討する。そのことを通して、道徳・公民科の授業が、自由に関してどのような理解を目指すものなのか、自由の指導・学習を促進するためにどのような手段を講じているのかを示したい。筆者らが観察した授業では、教員による助言等の支援を交えながらも、原則として学習ノートの各設問・記述に忠実に授業が進められ、設問への回答を順次書き込ませていく指導を基本としていた。以下、学習ノートの内容を順次検討していくが、掲載資料や設問を訳出する場合は、枠でくくったうえで、ゴシック体で示すこととする。前提として、第3課のタイトルでは、「自由」の語が定冠詞を付した複数形(les libertés, あえて意訳すれば「様々な自由」)になっていることに留意したい。第1・2課で扱われた「自由」が定冠詞を付した単数形 la liberté であったのとは対照的である。これら単数形の「自由」が普遍的理念としての「自由」を指すと考えられるのに対し、複数形の「自由」が示唆しているのは、欧州近代の人権思想の歴史的展開にともない、不当な権力による抑圧や禁止に対する闘争を経て、様々な機会に歴史的に勝ちとられてきた、身体的自由、政治的自由、結社の自由、出版の自由などの〈様々な権利としての自由〉である。タイトルで使用される語句のレベルにおいてすでに、自由を学ぶためには歴史的知識が必要であることが示されているといえよう。第3課の冒頭に位置づいている「活動1」と、そこに「資料1」として添付された歴史年表は、まさに歴史的次元での様々な自由が学習の主題であることを明らかにしている。活動1 時間をかけて勝ちとられた様々な自由資料1 困難を伴って獲得された様々な自由〔引用者注:年表中の下線部は、原文では網掛けで強調されており、年表欄外に置かれた語彙説明の対象となる語句(「奴隷制」、「現代の奴隷制」、「労働組合」)である(詳細は後述)。以下、〔 〕はすべて引用者による〕1789人間と市民の権利宣言1790集会と結社の自由1791ル・シャプリエ法があらゆる職業結社を禁止1794奴隷制の廃止1802奴隷制の復活1838イギリスにおける奴隷制の廃止フランスにおける奴隷制の廃止1848平和的な集会と結社の自由1865アメリカにおける奴隷制の廃止1881出版の自由と集会の自由1884労働組合活動の自由
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