29フランスの前期中等教育段階における道徳・公民科授業・教材研究(1) ─「自由」をめぐって─つか設定されている。第2課:「芸術:自由をたたえる」ニューヨークの港に設置された「自由の女神像」、および、パリのセーヌ河の中洲に設置されたそのミニチュアレプリカの歴史をふりかえりながら、どのように女神像が世界共通の自由のシンボルとして機能しているのかを考察する。女神像の建造計画がフランス人歴史家・政治家エドゥアール・ラブレ(Édouard René Lefebvre de Laboulaye, 1811-1883)の発案によること、像の造形制作を担当したオーギュスト・バルトルディ(Auguste Bartholdi, 1834-1904)、内部構造の建造を担当したギュスターヴ・エッフェル(Gustave Eiffel, 1832-1923)といったフランス人たちの積極的な関与が確認される。「自由」を筆頭に、近代的人権を確立した「功績」は、フランスのナショナル・アイデンティティとして機能している。その一方で、ニューヨークの女神像を支える星形の台座の制作にはアメリカ人が関わったことにも言及がある。第3課:「様々な自由の獲得と擁護」様々な自由が権利として確立されていった歴史的経緯が確認される。権利としての自他の自由を、歴史的知識をふまえながら論理的に理解することが目指される、「自由」にかかわる学習の核となる課であると目される(次節で詳述する)。第4課:「依存症は私の自由を破壊する」「依存症」という現代的課題とのかかわりで、「自由」を考察する課である。スマホ依存 (「携帯を所持していないことへの恐怖症(no mobile phobia)」を短縮した英語 “nomophobia” に由来する « nomophobie » という新語が紹介される)、精神に作用する物質の摂取にかかわる依存症 (アルコール、タバコ、薬物、精神安定剤)、行為にかかわる依存症 (ゲーム中毒、ギャンブル中毒、ネット依存、強迫的な買い物衝動、仕事やスポーツへの依存) は、自由を損ない、時には健康を害したり、社会的関係からの断絶といった事態をも招いたりする。そこから逃れるには、精神科医などの専門家の援助が必要な場合もあることが確認される。実際の授業では、生徒たちにとっても身近な問題であることから、議論を交えた対話的学習が効果を発揮していた。第5課:「EPI:諸価値について熟慮し、イベントを企画する」地歴、文学、芸術、国語、体育・スポーツ等の他教科の学習内容をふまえた、教科横断的な発展的学習のための活動が設けられている。資料として提示される、自由をたたえるシンボルを含んだ絵画や詩、パロディ作品などについて学んだあとで、生徒自身が自分なりの自由をたたえる作品を構想し、クラス内で発表・意見交換することが求められる。第2節:実際の授業観察をふまえた学習ノートの構造の検討フランスの道徳・公民科授業において、「自由」はどのように指導・学習されているのだろうか。本節では、「自由」の学習の中核をなすと目される第3課「様々な自由の獲得と擁護」を手
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