28早稲田教育評論 第 39 巻第1号の「第1部:自由」を扱った実際の授業の進め方をふまえつつ、授業の主たる教材となっていた学習ノートの対応箇所の構造を検討する。この作業を通して、学習ノートが自由についてどのような指導・学習のあり方を想定しているのか、何を、どのように生徒たちに学ばせ、どのような力を獲得させようとしているのかを把握し、日本の道徳教育との比較の視点を提示するべく試みる(3)。以下では、まず、「自由」を扱った学習ノートの部分について、その概要を確認する(第1節)。続いて、実際に観察した授業の展開をふまえつつ、「自由」の学習・指導の核と目される第3課に焦点を絞って、教材の構造を検討する(第2節)。最後に、以上の検討をふまえて抽出しうる、フランスにおける道徳・公民科教育の特徴を、日本の道徳教育との比較の可能性という視点から整理する(第3節)。第1節:学習ノートにおける「自由」にかかわる学習内容の概観学習ノートでは、第1部が「自由」にかかわる学習内容に充てられている。第1部は、「哲学者の卵:自由とは何か(L’apprenti (e) philosophe : Qu’est-ce que la liberté ?)」、「芸術:自由をたたえる(Arts : Célébrer la liberté)」、「様々な自由の獲得と擁護(Acquérir et défendre les libertés)」、「依存症は私の自由を破壊する(Les addictions ruinent ma liberté)」、「EPI:諸価値について熟慮し、イベントを企画する(EPI : Je réfléchis sur les valeurs et j’organise un événement)」とそれぞれ題された5つの課からなる。課のタイトルの冒頭に付されている「哲学者の卵」、「芸術」、「EPI」といった語句は、この学習ノートが独自に採用している学習・指導の過程のカテゴリー分けを示している。①「哲学者の卵」は「鍵となる主題」についての「熟慮と議論」を中心とした、各部の学習内容への導入部にあたる課、②「芸術」は「テーマを、芸術作品を通して理解する」課、そして③「EPI」は「教科横断型実践指導(Enseignements pratiques interdisciplinaires)」の略号であり、各部の最後に配置され、教科横断的な発展的学習を促すための課となっている。各課は、見開き2頁に収められており、それぞれ一回の授業で扱うことを想定しているものと考えられる。本節では、各課の学習内容を確認していこう(4)。第1課:「哲学者の卵:自由とは何か」自由という価値の学習の導入となる課である。①「発見」と②「考える」という二つの学習段階によって構成されており、①「発見」では、様々な写真資料を参照しながら、生徒が自分のイメージする「自由」を言語化していく活動が設定されている。②「考える」では、文書資料をもとに、「自由」を歴史的・概念的に理解する活動が設定されている。その際、主要資料として、「自由は一つの権利である」という項目名のもと、「人間と市民の権利宣言」(1789年)から、「人間たちは、自由かつ権利において平等なものとして生まれ、生存する」(第1条)(5) と、「自由とは、他人を害しない限りの、あらゆることをなしうることに存する。それゆえ、各人の自然権の行使は、社会の他の構成員にこの同じ権利を享受することを保証すること以外の限界をもたない。これらの限界は、法によってのみ定めることができる」(第4条)という二つの条文が採られている。これらの条文を基盤としつつ、どのような場合にどのような範囲で、各人の自由が他者の自由や法によって限界づけられることが妥当とみなされるか、考察を促すための問いがいく
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