25「辺境」から考える歴史教育─『世界史探究』におけるラテンアメリカの位置づけをてがかりに─Ⅰ.「世界史探究」教科書(筆頭著者五十音順)①秋田茂ほか 2023.『高等学校世界史探究』第一学習社②木畑洋一ほか 2023.『世界史探究』実教出版③木村靖二ほか 2023.『詳説世界史(世界史探究)』山川出版社④木村靖二ほか 2023.『高校世界史』山川出版社⑤羽田正ほか 2023.『新世界史』山川出版社⑥福井憲彦ほか 2023.『世界史探究』東京書籍⑦桃木至朗ほか 2023.『新詳世界史探究』帝国書院Ⅱ.その他木村靖二ほか 2022.『詳説世界史(世界史B)』山川出版社後藤雄介 2003.「回顧と展望──2002年の歴史学界/ラテン・アメリカ」『史学雑誌』112編5号,400-404頁史学会編 1988.『日本歴史学会の回顧と展望25──アメリカ』山川出版社時事通信社 2024.「24年度高校教科書採択状況──文科省まとめ(上)」『内外教育』7139号(2月9日号),8-15頁関雄二 2021.『アンデスの考古学──新版』同成社9 前後の文脈から、「受け入れ」の後に否定の「られず」が入るのは明らかに誤りだと思われる。削除されるべきである。10 NHK放送、2024年4月6日(https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2024137915SA000/)。(安丸 1996:166)を嘆いている。この「通俗的歴史観」は、安丸のみならず、歴史教育者全般に対する重大な脅威である。私たちが切磋琢磨して得た研究成果に基づく知見(史実)を、たとえ歴史教育の現場で日々披露したとしても「通俗的歴史観」に打ち勝てないとすれば、こんなに虚しいことはない。しかし、皆川マ マれず9、「私はこう雅樹が「「歴史好き」の人たちは、学説から見れば誤った解釈でも受け入れら思っているからいいじゃないか」と歴史を純粋に楽しむ傾向にあるという。歴史を純粋に楽しむ傾向が強く、最新の学説とは異なる「誤解」があっても受け入れない「歴史好き」たちの認識が、インターネットなどを通じて拡散されていくことになる」(皆川 2019:8-9)と指摘するように、「通俗的歴史観」は現在さらに進化(深化)していると言わざるをえない。このような状況下で、私たちはどうしたらいいのだろうか。「何をすべきか」を提示するのはむずかしいが、「何をしていけないか」はきわめてはっきりしている。それは、私たちみずからが「通俗的歴史観」に陥らないことである。本稿で検討した世界史教科書におけるアステカ文明・インカ文明の扱い方の現状は、誤解を恐れずに言えば、「通俗的歴史観」の発露に他ならない。巷には、「はるかな古代文明 アンデス・インカ 幻の黄金を求めて」10といった「通俗的歴史観」全開のテレビ番組が溢れている。私たちがそれらと同じ轍を踏んではならないのである。本稿が「歴史教育全体の発展にも資する」ことがあるとすれば、それはラテンアメリカ以外の地域の歴史叙述でも起こりうる、同様の事態に警鐘を鳴らすという意味合いにおいてである。文献一覧
元のページ ../index.html#31