教育評論第39巻第1号
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19「辺境」から考える歴史教育─『世界史探究』におけるラテンアメリカの位置づけをてがかりに─・「E 地球世界の課題」「A 世界史へのまなざし」(以下、「大項目A」または単に「A」とする。B以降も同様)は、「科目の導入的性格を有」し、「現在と異なる過去や現在につながる過去に触れ、世界の歴史を学習することの意味や意義を理解し、高等学校で初めてまとまった形で世界の歴史を学ぶ生徒に興味・関心をもたせることをねらいとしている」。「大項目B」〜「大項目D」は、「大項目Bについては歴史的に形成された諸地域の多様性、大項目Cについては諸地域の複合的なつながり、大項目Dについては 諸地域の構造的な連関性という点から、それぞれ諸資料を活用して読み解き、世界の歴史の大きな枠組みと展開に対する理解を深めることをねらいとしている」(文部科学省 2018:272)。時代範囲は、大項目ごとに重複したり地域ごとに多少のばらつきはあるが、「大項目B」は有史以前から古代文明を経ておおよそ10世紀以前まで、「大項目C」は10世紀以降から大航海時代を経て17世紀前後まで、「大項目D」は産業革命の17世紀以降から20世紀の第二次世界大戦の終結まで、そして「大項目E」は第二次大戦後の世界の秩序形成から現代までが、それぞれ該当する。じつはこの大項目の構成は、旧・学習指導要領(2009年制定、2014年一部改正)下で検定を受けた以下の『世界史B』の構成と大差があるわけではない(文部科学省 2009:30)。・「(1) 世界史への扉」・「(2) 諸地域世界の形成」・「(3) 諸地域世界の交流と再編」・「(4) 諸地域世界の結合と変容」・「(5) 地球世界の到来」 『世界史B』においては、大項目の名称を必ずしも目次に反映しなくてよかったようであるが(cf.木村 2022:2-3)、『世界史探究』と『世界史B』の大項目は、一見してそれぞれの数も内容も対応していることは明らかであるし、大項目下の中項目(「章」に相当)の構成にもそれほど大きな刷新・入れ替えは見られない。むしろ共通点として、「内容のA、B、C、D、及びEについては、この順序で取り扱う」(文部科学省 2018:277)ことが強調されているが、時間(軸)に関わる学問である歴史学にとって歴史項目の順序を尊重するのは当然である。だからこそ教科書構成における項目の「配置」がきわめて重要になってくるのであるが、その配置のあり方をめぐって、ラテンアメリカに関しては大きな課題があるというのが本稿の主張のひとつである。『世界史B』から『世界史探究』への変化としては、たとえば、世界の地域の位置づけを「一定のまとまりをもってはいるものの、独自の固定的な世界を形成しているわけではなく、流動的なもの」ととらえ直す必要から、「諸地域世界」を新たに「諸地域」と置き換えていることが挙げられる。その目的は、「諸地域の歴史的特質の形成、諸地域の交流・再編、諸地域の結合・変容を経て、世界は一体化に向かい、地球世界を形成していったことをより明確にするため」とされている(文部科学省 2018:272)。学習指導要領がここで強調しているのは、当然のことでは

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