教育評論第39巻第1号
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184 同7冊は、本稿末の文献一覧に丸数字(①〜⑦)でナンバリングを施して列挙し、本文中での言及・引用では、原則として丸数字のみで示すものとする。以下、本稿では教科書からの引用を適宜おこなうが、教科書間の記述に差異があり比較が必要な場合は当然それぞれの教科書から引用するものの、どの教科書からの引用でも大きな差異がないと判断した場合は、もっとも採択率の高い③(時事通信社 2024:14-15)からもっぱら引用するものとする。早稲田教育評論 第 39 巻第1号だからと言って無視してよいことにはならない。大きな歴史の流れの中に、ラテンアメリカもまた正しく記述される必要がある。記述の少なさもさることながら、世界史教科書におけるラテンアメリカの扱い方も、残念ながら十分とは言いがたい。それには相応の原因・理由があり、その原因・理由を明らかにし改善点を探るのが、本稿の目的である。ひいてはそれは、世界史におけるラテンアメリカの認知度を高めるだけでなく、歴史教育全体の発展にもささやかながら資するだろう。以上のような問題意識に基づき、本稿は、2018年の学習指導要領の改訂によって2022年度より新たに導入された高校世界史教科書『世界史探究』を分析対象とし、以下のように展開する。まず1節では、ラテンアメリカのみならず、世界史においてマイナーとされる地域をマイナーたらしめる背景となっているのではないかと考えられる、教科書の構成の問題を指摘する。次いで2節では、ラテンアメリカ史上の具体的なトピックとして、(1)アステカ文明・インカ文明、(2)メキシコ革命に注目し、これらの歴史事象の教科書での扱いのなにがどう問題なのかを明らかにし、具体的な改善点を示す。1.問題の背景としての教科書構成――『世界史探究』の場合2018年の学習指導要領改訂における高校歴史教育分野の目玉のひとつは、「世界とその中における日本を広く相互的な視野から捉え、資料を活用しながら歴史の学び方を習得し、現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を考察、構想する科目」(文部科学省 2018:123)としての「歴史総合」の設置であろう。「文・理融合」ならぬ、近現代に特化した「世界史・日本史融合」科目の誕生である。しかし、本稿が分析対象とするのは「歴史総合」ではなく、旧過程の『世界史B』の発展継承科目に相当し、「諸地域の歴史的特質の形成、諸地域の交流・再編、諸地域の結合・変容という構成に沿って、世界の歴史の大きな枠組みと展開について理解を深め、地球世界の課題とその展望を探究する力を養うことをねらいとして設置された」(文部科学省 2018:271)、『世界史探究』である。具体的には、2018年の学習指導要領の改訂を踏まえて編集され、2021年度の検定に合格した7冊(2023年度発行)である4。学習指導要領によれば、『世界史探究』の教科書は以下の5つの「大項目」(「部」に相当)で構成されなければならない(文部科学省 2018:271-272)。・「A 世界史へのまなざし」・「B 諸地域の歴史的特質の形成」・「C 諸地域の交流・再編」・「D 諸地域の結合・変容」

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