131「古典探究」教科書の漢文教材をめぐってと、我が国の伝統的な言語文化に対する理解を深めることをねらいとして、生徒の発達の段階や国語の資質・能力の程度、興味や関心などに配慮し、適切な古典の作品や文章などをバランスよく取り上げることが大切である。と、古典に親しむ態度や読む能力の育成、伝統的な言語文化への理解のための教材のバランスが説かれるとともに、そのためには、古文と漢文の作品や文章の両方にわたって、適切に選定する必要がある。その際、古文には、和歌、俳諧、物語、随筆、日記、説話、浮世草子、能、狂言、評論など、漢文には、思想、史伝、詩文など、多種多様な種類の作品や文章があることに留意する必要がある。古典としての古文と漢文の双方にわたる選定と多種多様な教材が存在することへの配慮も指摘される。さらに同上の「教材」の留意事項「ウ」の、ウ 教材は、言語文化の変遷について理解を深める学習に資するよう、文章の種類、長短や難易などに配慮して適当な部分を取り上げること。に対しては、「言語文化の変遷について理解を深める」ことの意味について、例えば、『古事記』や『万葉集』など漢字のみを用いて表記された作品から、仮名文字が用いられるようになった作品へといった文字表記の変遷、女性文学から隠者文学、庶民文学へといった文学の担い手と思潮の変遷などを理解したり、軍記物語の文体に漢文訓読の影響を見いだしたり、俳諧の学習においてその成立に至るまでの和歌、連歌の歴史を通観したりというように、読むことの学習と関連して言語文化の変遷について理解を深めるということを示している。言語文化の変遷に関わる理解を深めることが示される一方、「文章の種類に配慮する」とは、文章の種類や類型、形態に偏りなく、幅広い範囲で教材を取り上げることで、古典の多様な世界に触れさせるということである。とし、「長短や難易などに配慮する」ことについても、短く平易なものがよいということではなく、ある程度まとまった量の教材を読むことで、古典を読む能力が養われるという側面もあることを踏まえている。古典を読む資質・能力を養うためには、生徒の発達の段階や指導の時期に即応して、長短難易様々なものをバランスよく取り上げ、その配列を工夫するなどの配慮が必要である。と、バランスと配列の工夫が求められることを提言している。研究部会「新高等学校国語科目□古典探究□の教材研究」(2023年度〜2024年度採択)は、この「古典探究」の教材を対象として現職の人々の協力も得て多角的に研究活動を展開してきている。その活動の成果を一冊の書物にまとめ得ることを念頭に置きつつ、2年度目の活動を部会構成員こぞって推進中である。その活動の個人的な成果として「古典探究」の「日本漢文」教材の掲載方法を中心とした考察を試みたい。
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