まとめ本報告においては、公共図書館における子どもの読書活動のおよび、公共図書館がどのように家庭における子どもの読書活動(家読)を支援しているのかを、日本および中国の比較しながら検討することを課題として設定した。また、現在、在日外国人家庭が増加する中で、外国人家庭において、どのような読書活動を実施しているのか、また多文化共生社会の実現のために、公共図書館が展開している活動について論じてきた。第1章では、日本における子どもの読書活動推進政策について概況を紹介した上で、読書条例を制定し読書活動に積極的に取り組んでいる東京都荒川区に焦点を当て、児童に対する読書活動について論じた。荒川区では中央図書館であるゆいの森には、柳田絵本館が設置され、絵本を中心とした読書活動が積極的に展開されている。また、絵本の読書を進めるため、柳田邦男絵本大賞が創設され、また家読を進めるため「うちリス」の作成などの活動が展開されている。荒川区の場合、図書館行政に力を入れており、図書館についても自治体の運営による直営型が堅持されている。子どもの読書活動、とりわけ家読において、公共図書館の果たす役割が大きいことを、荒川の事例は提示してくれるものと考える。第2章では、中国の読書政策について整理した上で、中国の江蘇省連雲港市及び吉林省ハルビン市という都市部における公共図書館を取り上げ、図書館が推進している親子を対象とする読書活動に焦点を当てて論じた。2010年代以降、中国では国家の政策として、「全国民の読書」が推進されるようになり、全国で親子の家庭読書活動を促進するため、政策・法律の整備を進め、公共図書館の整備が都市部を中心として進められている。江蘇省連雲港市及び吉林省ハルビン市は、それぞれ中国の南方、北方に位置する地方都市であるが、蔵書の充実した図書館が開設されており、絵本の読み聞かせや親子による読書体験を促進する講座が開設されている。また、二つの公共図書館の事例から、中国の場合、日本よりもはるかに絵本のデジタル化、あるいはICT化が進んでおり、WeChat公式アカウントなど通じて、新書の紹介や図書館の活動を定期的に配信していること、また、コンテンツ、あるいは絵本の語りの映像も配信されていることが指摘できる。こうした点は、日本として学ぶべき点も多い。一方、中国の農村部では、必ずしも公共図書館が整備されているわけではない。そうした公共図書館の不足を補うものとして、民間の公益図書館が設置されているケースがある。本稿では、福建省厦門市の港頭公益図書館の事例を紹介した。同図書館は、個人の発意によって設立された図書館であるが、「流動児童」や「留守児童」のために様々な講座を展開し、また彼らの勉強部屋、また居場所となっている。ただし、あくまでも民間による運営のため、図書館の質という点では課題も多いことを指摘しておきたい。第3章では、在日の外国人家庭における読書活動について、中国人家庭を対象として取り上げ論じた。あわせて、新宿区立大久保図書館の事例を紹介しながら、公共図書館が外国人家庭の増加に対応して、いかなる対応をしているのか、検証してきた。本稿で紹介した在日中国人家庭の場合は、高学歴の両親ということもあり、子どもは幼児から126早稲田教育評論 第 39 巻第1号
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