教育評論第39巻第1号
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124早稲田教育評論 第 39 巻第1号性を示唆している(分担執筆:李雪)。3.3 在日外国人家庭における親子「家読」の事例:絵本を通しての三言語教育近年、日本留学を経て、そのまま就職定住していく中国人が増えている。彼らの子どもは日本生まれ、日本育ちで、日本語は第一言語である。ただし子どもの将来を考え、中国語そして英語教育にも力を入れている家庭が多い。Wは夫婦とともに中国の大学と大学院を経て日本に留学し、博士学位を取得後日本で就職・定住した中国人であり、現在は二児(長女11歳、次女5歳)の母である。Wの長女は日本生まれ、日本育ちであるため、日本語は自由に操ることができ、第一言語だと言える。二番目は母語の中国語であり、三番目は学習言語の英語である。Wは子どもに対して、絵本を通しての三言語教育(日本語、中国語、英語)を実践しており、ここで紹介したい(半構造化インタビュー、2024年8月6日)。大部分の在日中国人にとって、子どもにどんな絵本を読み聞かせしていいかが最初はわからないものである。Wは図書館の司書や幼稚園の先生、または日本人の「ママ友」から、さまざまな定番な絵本をすすめられ、家読をしていた。たとえば、『子どものとも』、『ぐりとぐら』、『11ぴきのねこ』、『14ひきのシリーズ』など有名な絵本である。また、家庭内では主に中国語を使用しているため、語彙力を高めるため『ことばのこばこ』(和田誠)のようなことばの遊びの絵本も愛読していた。子育ての手伝いに来た祖父母は、家で中国語の絵本を読んだ。中国語の絵本については、地元の公共図書館に中国語の絵本も置いてあったので、それらも読んでいた。Wは「近くの図書館には何十冊の中国語の絵本があるので、借りて読んでいた。それらは大部分が日本の絵本を中国語に訳したものである。日本語版はすでに読んだことがあるので原文の意味を理解した上で、中国語バージョンを対照的に読むとその内容は理解しやすかった」と話した。また、Wの長女は4歳頃から英語の絵本も読み始めた。Wの自宅は上野から近いので、よく長女を連れて国立国際子ども図書館に行っていた。Wは「そこにはいろんな国の絵本が置いてあったため、当時毎週少なくとも10冊の外国の絵本を読んでいた。週1回か2回、毎回2時間、時には丸一日もそこで過ごしていた。よく同じ絵本の中国語版、日本語版、英語版を順番に比較しながら読んでいた」と、絵本を通して三言語を学習する様子について語った。Wの事例からは幼児期の絵本活動を通して、子どもに高度な言語能力、文化能力、多様な価値観を身につけさせることは可能であるといえる。また、母語・継承語の保持・伸長において、日本の公共図書館も重要な役割も果たしているといえよう(分担執筆:孫暁英)。3.4 多文化家族を支える絵本──新宿区立大久保図書館における多文化サービス日本において多文化家族が増加して久しい。母語が日本語ではない言葉の壁や身近に頼る人がいない孤独感は重い課題であり、母語や日本語に触れる機会、地域の人々と時間やつながりを共有できる拠り所が必要である。大久保図書館は、基本理念として「誰も置き去りにしない。国籍と人種を超えて違いを尊重しあう」を掲げ、「韓国語・中国語・英語などの本を揃えた多文化図書コーナー」「多文化図書推薦

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