教育評論第39巻第1号
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3.2 日本の国際家庭における絵本を通じた言語学習現代の社会はグローバル化が進んでおり、多言語能力の獲得は子供たちにとって非常に重要である。特に国際家庭では、多様な文化背景と言語環境が交錯し、言語学習のアプローチも多様化している。幼児期における家庭におけるリテラシー活動は重要であり、親や周囲の大人による絵本の読み聞かせなどの継承語リテラシー活動は、子どもの継承語能力の基盤を築き、その後の継承語のさらなる発達を促進する。さらに、家庭の積極的な関与が子どものバイリンガル能力の発達に不可欠である。ここでは、高学歴の両親を持つ日本在住の国際家庭を事例として取り上げ、絵本を通じた言語学習の実践を紹介する(半構造化インタビュー、2024年8月27日調査)。本事例は、日本人の夫と中国人の妻(Z)、そして8歳の娘と4歳の息子から構成される家庭である。両親はアメリカでMBAを取得し、高い英語能力を持っている。家庭内コミュニケーションでは、父親と母親の間では中国語が、母親と子どもたちは中国語を、父親と子どもたちは日本語を主に使用しており、子どもたちは学校で英語を使用している。子どもたちは、学校での英語、家庭での日本語と中国語をバランス良く使い分けている。Zの説明では、この家庭では絵本が言語学習において重要な役割を果たしている。絵本の選定は、公共図書館の推薦(推薦リスト)や定番作品を中心に行われている。その意味で、公共図書館の推薦リストは重要な役割を果たしている。また、読み聞かせでは、主に英語と日本語の絵本が使用されている。スティーブン・クラッシェン(Krashen, S. D.)の第二言語習得理論26では、自然な環境下で意味のあるインプットを提供することが言語習得の鍵であるとされる。絵本の読み聞かせは、子どもたちに自然な言語環境を提供し、豊富な言語インプットを可能にする手段として機能する。この方法により、子どもたちは自然に言語を吸収し、実際の使用状況を体験することが促進されると考えられる。Zによれば、絵本を読む際に、家庭での言語学習アプローチは単に絵本を読むことにとどまらず、関連する映画やアニメーションの視聴、関連する玩具を用いるなど、多元的なインプットを取り入れる方法が採用されている。例えば、ある時期、娘が英語の「ピーターパン」に興味を持ち、Zは絵本を読み聞かせながら、ピーターパンのアニメーションを視聴し、ピーターパンに関連する玩具で遊ぶことで、娘が物語の理解をさらに深めることができる。このような多角的な学習方法は、物語の内容をより完全に再現する能力を子どもたちに育成する効果がある。絵本を活用した多言語学習が子どもの言語能力のみならず、文化的理解や自己認識にも深い影響を及ぼすことが確認できる。ただし、高学歴の親はバイリンガル育成に積極的な役割を果たすが、公的リソースへのアクセスも重要である。例えば、本章の3.4で紹介する新宿区大久保図書館のように公共図書館の多言語絵本の活用は、言語学習の機会を広げ、子どもの多言語能力の向上に寄与するのではなかろうか。さらに、読み聞かせの技術の向上も効果的な言語教育の支援のために不可欠である。このような家庭と公的機関の連携による言語教育の実践は、多言語社会における教育の将来的な方向123子どもの読書活動と「家読」の推進に関する一考察─日中の公共図書館の比較から─

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