122早稲田教育評論 第 39 巻第1号せ、学科知識の補習と習い事などがある。港頭公益図書館はボランティアたちにボランティア証明書を発行し、特に優れているボランティアには、「優秀ボランティア賞」を贈る。港頭公益図書館は生活が不安定な流動児童や留守児童に読書環境を整えるための試みである。これまでの中国においては、政府が運営している公共図書館が増えてきたものの、地方においてはまだまだ不足している。その意味で、港頭公益図書館のような民間の設立による公益図書館には期待が持てる。さらに港頭公益図書館の取り組みは、政府が運営している公共図書館と比べて、組織体制がより柔軟的であり、展開しているイベントも豊富多彩であるとも言える。ただし、存在する問題点も多いと考える。たとえば、図書館の運営はボランティアと館長の顔氏が行っており、図書館専門職員がいないので、図書館活動の専門性が確保できない。また、ボランティアの不安定な供給により、イベントの質と連続性も問題である。今後は図書館活動の質の向上が期待されるのではなかろうか(分担執筆:朱奕雷)。3、在日外国人家庭と読書活動3.1 在日外国人の子どもの継承語教育と読書活動本人あるいは両親ないし片方の親が外国生まれの児童の中には、居住国の学校の言語以外に、親の母語、すなわち少数言語を家庭等で使用しながら育つ者がいる。中島はこのような言語は親が子に継承しようとする「継承語」と呼ばれ、親の母語と母文化を子に伝えるための教育支援を「継承語教育」と定義している23。日本在住の外国ルーツの子どもたちが現地語である日本語を身につけることはもちろん重要だが、彼らがルーツを持つ国や地域の継承語を学ぶことも同様に重要である。真嶋は、日本でマルチリンガル人材に育った大学生の成功要因を探った結果、調査対象となった五つの家庭全てにおいて、子どものときに保護者が本の読み聞かせをしたり、子どもが自分で本を読んだりするなど、子どもたちが多くの本に触れて育っていたことを明らかにしており、継承語の保持と発展において、家庭での本の読み聞かせは重要な取り組みであること24が分かる。しかし、家庭環境も多様である中、継承語教育の全てを家庭が担うことには限界がある25。外国に住むことで継承語学習を行う機会が減ってしまう外国籍児童にとって、家庭の外で継承語に触れることで継承語学習に対する動機づけにも援用できる。そのため、家庭における読書活動をより一層推進するため、公共図書館は、読書活動や資料に関する専門的機関として、地域における子どもの読書活動推進の中核的な役割を果たすことが期待されている。また、日本図書館協会多文化サービス委員会では、民族的、言語的、文化的少数者(マイノリティ)の文化や言語の面から図書館利用に障害のある人たちに対する多文化サービスの重要性を指摘している。本章では、家庭及び公共図書館の多文化サービスに焦点を当て、絵本を通じた在日外国人の子どもの継承語教育と読書活動を検討する。また、本章の3.2及び3.3で紹介する2つの在日中国人家庭の事例は、両親ともに高学歴の事例であることを、最初にことわっておきたい(分担執筆:李俐穎)。
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