114早稲田教育評論 第 39 巻第1号そして、家庭教育に対する法的保障も、法律の制定としての「法制」から、法律を実際に運用としての「法治」へ進化していく傾向がある10。2021年、中国政府は「中華人民共和国家庭教育促進法」(中国語で「中華人民共和国家庭教育促進法」)を公布し、家庭教育は「家庭の課題」から「国家の課題」へと位置づけられるようになった。そのため、同法では「図書館、博物館、文化館、記念館、美術館、科学技術館、体育館、青少年宮、児童活動センターなどの公共文化サービス機構および愛国教育基地は毎年、家庭教育の推進、家庭教育の指導サービスや実践活動を定期的に展開し、家庭教育に関わる公共文化サービスの提供を行うべきである」(第四十六条)が明示されている。中国政府は家庭教育を推進するために、社会教育機構の活用と役割強化を重視しているといえよう。さらに2021年7月に「双減」政策(中国語で「双減」政策11)が施行され、家庭教育の重要性が一層注目されるようになった。これに伴い、子供の家庭教育においては、「家読」がさらに重視されるようになった。中国新聞出版研究院の「第19回全国民の読書調査」によると、2021年において、0〜8歳の子供を持つ中国の家庭の73.2%が親子読書の習慣を持っており、これらの家庭では、親が毎日平均26.1分を子供との読書活動に費やしていることが明らかになった。中国図書館学会は、中国政府の「全国民の読書活動を深化させる」方針に基づき、家読と親子読書の活動を推進している。具体的には、家読習慣の育成および親子読書指導を目的とし、「子供に図書館を発見させる──絵本読み999」(中国語で「讓孩子発現図書館──閲絵999」)という活動を展開した。この活動には、絵本の推薦、現地の特徴に応じた絵本展覧会の開催、絵本の音読ビデオの提供、絵本講座の開催、絵本の読書を促すための「ツールキット」の共有が含まれている。また、家読を推進するために地方の公共図書館も、絵本の推薦リストの作成、講座の開催、親子の家読交流会、体験活動の展開、家読に関するデジタル資源の提供といった様々な活動を行っている。例えば、2023年に上海の浦東図書館は「3歳以内の乳幼児に向けた家読の指導計画」を設け、乳幼児の心身発達の段階に応じて「絵本」、「童謡」、「ゲーム」に重点を置き、親子読書の楽しみと方法を保護者に身につけさせる取り組みを行っている。同年、首都図書館は専門家を招き、「児童の読書段階の規律及び家読への指導方策」をテーマとした講座を開き、そのビデオをオンラインで共有させた。これは図書館が家庭教育に関する資源をインターネットでデジタル化しようとする試みである。以上から、中国政府は全国で親子の家庭読書活動を促進するため、政策・法律の整備を進め、図書館などの社会教育施設の機能を活用していることを指摘できる。その上で、読書を愛する社会・家庭の雰囲気を創出し、保護者や児童に読書の趣味・習慣および科学的な方法を身につけさせることを目指している。以下では、地方の公共図書館の事例として、中国南方に位置する連雲港市図書館、及び北方に位置するハルビン市図書館を取り上げて児童の読書活動について論じていく(分担執筆:劉琦、姚穎)。
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