教育評論第39巻第1号
119/160

113子どもの読書活動と「家読」の推進に関する一考察─日中の公共図書館の比較から─る。「家読」に決まりはなく、家族や身近な人と同じ本を読む、読んだ本の感想をみんなで話し合う、家族で話し合って「家読の日」を決める、自分のおすすめの本を教えあう、家族や身近な人に本を読んであげるなどの活動を中心にしている。区立図書館では、令和3年度から、年に2回、「家読」専門のおすすめ本リスト「うちリス」の発行を始めている。荒川区では、小中学生向けの小論文コンクールが実施されているが、このリストを使って本を選び、小論文を執筆する児童・生徒も少なくない(2024年度、小学生の応募作品から)。また、南千住第二幼稚園では、家読に取り組み、毎週末に、お気に入りの絵本2冊を選んで持って帰り、家の人と読むという活動を展開している(他の幼稚園でも実施。2024年10月調査)。その他、ゆいの森に出かけ、ゆいの森に併設されているホールで図書館司書の方から親子読み聞かせをしてもらい、そのあと、親子で絵本を選び読む活動もした。また、図書館職員が幼稚園に来て親に読み聞かせの指導をする「お話広場」という活動も開催している8。きめこまかな読書政策によって、多くの世代を巻き込んだ読書活動が展開されていると言えよう。荒川区は、全国のレベルで見ると、図書館行政に力を入れてきた自治体の一つである。現在、本離れが言われており、家庭における読書活動は重要な部分と考えることができる。その意味で、荒川区の公共図書館における家読推進の活動は注目できるのではなかろうか(分担執筆:小林(新保)敦子)。2、中国における「家読」を推進する公共図書館の事例研究2.1 中国の読書政策および家庭での読書活動の推進中国における「家読」の推進は、「読書」と「家庭教育」の両方を支援する施策によって成り立っている。中国政府は法律や政策の制定による制度の整備、公共図書館などの社会教育施設の機能を活用する環境の整備に取り組みつつある。そして家庭、学校、図書館の相互連携を促進しながら、保護者の家庭教育意識を強化し、良い読書習慣を身につけさせ、子供の読書に対する指導能力を向上させることで「家読」の推進を図っている。読書活動は児童の認知発達、人格形成に役立つため、2010年代に入ると、政府文書で「全国民の読書」が強調されることが多くなった。2012年、中国共産党第十八回代表大会で提示された「全国民の読書活動を展開する」方針を皮切りに、「全国民の読書」という語彙は11年連続で政府の事業報告書に記載された9。また、2024年には「全国民の読書活動を深化させる」ことが明示された。この間、2016年に公布された「全国民読書の「十三五」時期の発展規画」(中国語で「全民閲読『十三五』時期発展規劃」)は、全国民の読書活動に対する基本原則を明確に提示した。2020年には、中央政府の宣伝部が「全国民読書の事業を促すことに関する意見」(中国語で「関於促進全民閲読工作的意見」)を通じて、全国民の読書活動を強化するための全面的な整備を行った。また、「全国民読書の促進条例」(中国語で「全民閲読促進条例」)が「国務院2024年度立法工作計画」(中国語で「国務院2024年度立法工作計画」)に組み込まれた。全体的に見ると、全国民の読書活動に対する政策・法律の保障は具体化し、システムが整備されつつある。

元のページ  ../index.html#119

このブックを見る