教育評論第39巻第1号
118/160

112早稲田教育評論 第 39 巻第1号動を支援し、文化の拠点である図書館を中心としたまちづくりを進めている(荒川区で進めている読書活動については、以下の論文でも言及、Atsuko Simbo, Mutsuko Tendo (2022)7)。また、第4次読書活動推進計画では、施策の柱の一つとして、「家読」を重視した活動を展開している。幼い時に、親が子どもに本の読み聞かせをし、一緒に楽しむことが、子どもの生涯にわたっての喜びを与え、生きる力を与えてくれるという趣旨からである。他の自治体が図書館を指定管理者の運営に委ねる方向性にある一方、荒川区では図書館施策を重視しているため、図書館は直営となっている。そのことが、荒川区の読書活動への積極的な取り組みを可能にしていることは指摘しておきたい。1.2.2 ゆいの森あらかわ荒川区では、中央館である「ゆいの森あらかわ」の他、南千住図書館、尾久図書館、町屋図書館、日暮里図書館という4つの分館、汐入図書サービスステーション、冠新道図書サービスステーションという2つの図書サービスステーションからなる図書館システムを構築しており、いつでもどこでも、街中で本にふれることができる環境整備が行われている。ゆいの森あらかわ(2017年設立)は、①図書館、②吉村昭記念館、③児童館の3つの機能を備えた多世代交流型の複合施設であり、フリーwifiであるため、とりわけ中高校生の利用が多い。同図書館には、ノンフィクション作家の柳田邦男氏(1936年〜、以下敬称略)にちなんだ柳田絵本館(蔵書3万冊)が設置されており、日本国内で出版されてきた国内外の優れた絵本を、実際に手にとってみることができる。柳田は、大人にも絵本を、ということを提唱しており、大人向けの絵本も少なくない。そのため、こども連れや、絵本の愛読者である大人がいれかわりたちかわり来館している。絵本館は、子どもの遊び場(乳幼児向けの施設)と連結し、乳幼児の親子連れの利用も多い。2017年3月に開館した後、来館者は2020年1月に200万人を達成した。1.2.3 柳田邦男絵本大賞を通じた絵本教育活動荒川区では読書推進活動の一環として、柳田の協力で、2008年に「柳田邦男絵本大賞」を創設した。柳田邦男絵本大賞の応募作品は、個人的な体験が書きやすいようにと、柳田へ宛てた手紙の形式で募集している。大賞は、児童の部(中学生まで)と、一般の部(高校生以上)に分かれているが、小学生からの応募が多く、小学生を中心とした絵本教育の重要な場となっている。応募総数は、年々増加して、1,000作品を越えていたが、絵本の普及は一定程度、定着したということから、2024年に同賞の募集は停止された。また、ゆいの森では、10代の読書好きの青少年による絵本の読み聞かせ活動、高齢者女性による読書サークルによる児童文学の語りという活動も展開していて、読書の普及活動とともに、世代間の交流を図る活動を積極的に展開している(2023年・2024年、実地調査)。ゆいの森を中心とする図書館ネットワーク、そして柳田邦男絵本大賞といったイベントなどの開催によって、子どもたち、そして子どもだけでなく大人も絵本に親しみ、読書を契機とした人と人との結びつきが実現し、読書を愛するまちづくりにつながっている。1.2.4 家読の推進荒川区では、「読書を愛するまち・あらかわ」宣言に基づき、子どもたちの豊かな心を育むため、子どもたちが本と出会い、読書の大切さや楽しさを実感できるよう読書活動を推進してい

元のページ  ../index.html#118

このブックを見る