110早稲田教育評論 第 39 巻第1号まず第1章では、日本の図書館政策及び読書活動推進政策について説明を加えた上で、読書条例を制定し読書活動に積極的に取り組んでいる東京都荒川区に焦点を当て、公共図書館の子どもの読書活動の推進の実態、とりわけ絵本の読書活動の推進の状況について検討する。第2章では、中国の読書活動に関する政策を踏まえた上で、連雲港市(中国南方)及びハルビン市(中国北方)という都市部の公共図書館における親子の読書活動について紹介する。また、農村地域における民間の公益図書館での子どもの読書活動に対する取り組みについても論じる。第3章では、在日の外国人家庭における読書活動について、中国人家庭をケーススタディとして、絵本が継承語の維持や多数言語の習得にどのような役割を果たしているのかを紹介しつつ、そこにおける公共図書館の役割について検討する。あわせて、公共図書館である新宿区立大久保図書館の多文化サービスおよび多文化家庭への支援を紹介する。本プロジェクトは、北京師範大学教育学部と進めている国際共同研究(2023〜2024、絵本と子どもの発達:多文化共生社会に向けて)の一環でもある。国際的な視野から研究を実施する(分担執筆:小林(新保)敦子)。1、日本の図書館政策および家庭での読書活動の推進1.1 日本における子どもの読書活動推進政策日本においては、戦後、1950年に図書館法(昭和25年法律第118号)が制定され、1953年には学校図書館法(昭和28年法律第185号)が定められた。学校図書館に関しては、公立義務教育諸学校図書館の目標蔵書数を設定した「学校図書館図書標準」が1993年に文部省(当時)によって公表され、これを達成するため同年には「学校図書館図書整備5か年計画」が策定され、予算確保や蔵書数の達成に向けた計画が示された1。子どもの読書活動に関する政策的な取り組みが本格化するのは、2000年以降である。衆参両院の決議によって、2000年が「子ども読書年」とされ、国立国会図書館の支部図書館として「国際子ども図書館」が開館した。同図書館は、「おおむね十八歳以下の者が主たる利用者として想定される図書及びその他の図書館資料に関する図書館奉仕を国際的な連携の下に行う」(国立国会図書館法第22条)ために設立された、日本で唯一の国立の児童書専門図書館である。同図書館の開館によって、学校図書館のみならず学校外での読書活動についても一層の充実が目指された。翌2001年には読書活動に特化した法整備もなされ、子どもの健やかな成長に資することを目的に、「子どもの読書活動の推進に関する法律」(平成13年法律第154号)が施行された。これは、読書活動の推進についての基本理念を定めた法律であり、国や地方自治体の責務を明確にしつつ、推進に必要な事項を規定することで、読書活動に関する施策を計画的に実施することに主眼が置かれていた。同法の制定を受けて、上述の「学校図書館図書整備5か年計画」の第2次計画が2002年に策定され、現在は2022年に策定された第6次計画に基づいて、学校図書館の図書の更新、新聞の複数紙配備、学校司書の配置拡充などが図られている。また、同法の第8条第1項では、子どもの読書活動の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」(以下、基本計画と記載)を政府が策定しなければならないことを規定している。これに基づき、2002年には第1次基本計画
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