105小学校教師における児童の運動有能感に関する理解状況められなかったものの、4項目中3項目で有意差が認められた(表2)。さらに、自己評価点と他者評価点に関する重み付きκ係数は、第1因子である身体的有能さの認知で0.37、第2因子である統制感で0.10、第3因子である受容感で0.29であった。κ係数とは、判定者間一致を評価する尺度である(Holle and Rein,2013)。κ係数の値が1に近いほど一致度が高く、0.00〜0.20で「slight agreement(わずかに一致)」、0.21〜0.40で「fair agreement(まずまずの一致)」、0.41〜0.60で「moderate agreement(中程度の一致)」、0.61〜0.80で「substantial agreement(かなりの一致)」、0.81〜1.0で「almost perfect(ほぼ一致)」として評価される(Landis and Koch,1977;Holle and Rein,2013)。本研究で算出されたκ係数はいずれも0.40未満と低値であり、わずかに一致もしくはまずまずの一致として評価された。これらのことから、自己評価点と他者評価点の一致性は十分ではなく、教師は児童の運動有能感の程度を必ずしも適切に把握できていないことが示唆された。両者間で有意差を認めた項目では、いずれも自己評価点が他者評価点よりも高値であったことから(表2)、全体の傾向として、児童の運動有能感は教師の予想以上に高い傾向にあることが推察された。一方で、自己評価点と他者評価点の得点差に応じて人数分布を検討したところ、他者過大評価群と他者過少評価群に分類される児童の割合は、それぞれ、第1因子の身体的有能さの認知で6.7%と12.2%(平均9.0/134名と平均16.3/134名)、第2因子の統制感で7.3%と6.9%(平均9.8/134名と平均9.3/134名)、第3因子の受容感で6.6%と6.0%(平均8.8/134名と平均8.0/134名)であった(表3、図1)。このことから、小学校教師における児童の運動有能感に関する理解状況は児童間で異なることが明らかとなり、約80〜90%の児童に対してはほぼ適切に把握できているものの、残りの約10〜20%の児童に対しては十分に理解できていないことが示された。教師の予想よりも自信がない児童(他者過大評価群)と教師の予想よりも自信がある児童(他者過少評価群)は、それぞれ10%程度存在していた。本研究の目的の2点目は、教師における児童の運動有能感の理解状況について、運動能力と運動有能感の高低が一致する児童とそうでない児童との間で差があるかを明らかにすることであった。自己評価点と他者評価点の得点差をHH、HL、LH、LLの4群間で比較したところ、全ての因子で得点差に有意差が認められた(図2〜4)。また、いずれの因子でも、HHとLHでは得点差がプラス、HLでは得点差がマイナス、LLでは第1因子の身体的有能さの認知を除いて得点差がマイナスの値であった(図2〜4)。このことから、運動有能感が高い水準にある児童(HH・LH)は教師が予想するより有能感が高く他者過少評価の傾向にあること、運動有能感が低い水準にある児童(HL・LL)は教師が予想するより有能感が低く他者過大評価の傾向にあることが示された。特に、HLにおける得点差は他の3群と比べて全ての因子で有意に低値であった(図2〜4)。このことは、4群の中で最も教師による過大評価が顕著であることを意味し、HLの児童は教師が思っているよりもはるかに自信がないことが推察される。HLに分類される児童は、新体力テストの総合評価がAもしくはB判定であるため客観的に運動能力は優れていると判断されるが、その一方で主観的な指標である運動有能感は低い水準にある。このような運動能力と運動有能感の高低にギャップがあるケースを教師は十分に想定できていない可能性が考えられた。運動有能感が低値であるLLと比べても、HLにおける得点差の絶対値は大きく過大評
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