教育評論第38巻第1号
97/208

キーワード: 東亜同文書院、International Student Fellowship of Shanghai(上海国際学生親睦会)、坂本義孝、【要 旨】本稿は1920年代半ばから30年代初めの上海で活動を展開していたInternational Student Fellowship of Shanghai(上海国際学生親睦会。以下ISFと略称)について論じるものである。ISFは1924年6月7日、国際都市上海に設立された各国学生間の親睦団体であり、欧米のキリスト教系学校のほか、日本の東亜同文書院も主要構成メンバー校として参加していた。人類愛と世界平和の追求を目標にかかげ、多種多彩な社交活動──講演会やテーマ討論会のほか、コンサート、演劇、ダンス、ピクニック等の娯楽的プログラムが組まれ、各国の料理や茶菓が振る舞われた──を通じて、国家・民族の枠を超えた友愛の構築と深化が目指されたのであった。従来ISFに関しては、その存在自体ほぼ取りあげられることなく、唯一これに注目した先行研究は社交活動、特に男女交際の舞台としての側面にフォーカスするものであった。これに対し本稿は、ISFと東亜同文書院との関わりを切り口として、それが学生間の親睦団体というだけでなく、国際的な平和運動ネットワークに、具体的にはFellowship of Reconciliation(友和会)の非戦・平和を目指す草の根の国際的市民運動の一環として位置づけられるべき組織であったことを浮き彫りにした試論である。このネットワークの結節点として活躍したのは坂本義孝であった。ISF創設以来、終始中心的役割を発揮した東亜同文書院教授の坂本は友和会の有力メンバーであり、坂本をキーパーソンとして、日本・中国・欧米の間をつなぐ平和運動が展開されていたのであった。本稿は100年前(1924)に誕生したISFの活動にあらためて光を当て、世界戦争の危機の時代に、国境を跨ぎつつ、草の根レベルで展開された平和教育の一つの地下水脈を掘り起こすものである。本稿は1920年代半ばから30年代初めの上海で活動を展開していたInternational Student Fellowship of Shanghai(上海国際学生親睦会1。以下ISFと略称)について論じるものである。ISFは1924年6月7日、国際都市上海に設立された各国学生間の親睦団体であり、欧米のキリスト教系学校のほか、日本の東亜同文書院(以下「書院」と略称)も主なメンバー校として参加していた。人類愛と世界平和の追求を目標にかかげ、多種多彩な社交活動──講演会のほか、音楽、演劇、ダンス等の娯楽的プログラムが組まれ、各国料理や茶菓が振る舞われた──を通じて、国家・民族の枠を超えた友愛の構築と深化が目指されたのであった。Fellowship of Reconciliation(友和会)、平和運動、平和教育911.はじめに清水賢一郎東亜同文書院と International Student Fellowship of Shanghai─平和教育/運動の国際的ネットワークの視点から─

元のページ  ../index.html#97

このブックを見る