教育評論第38巻第1号
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─ 批判的思考理論と教師の熟達化に着目して ─「事実に関する問い」の例:What is the annual amount of food lost or wasted globally?(世界全体の年間食料廃棄量はどのくらいでしょうか。)「議論を喚起する問い」の例:What actions can we, as young adults, undertake to minimise food loss and waste, and how might these efforts affect the world?(食品ロスや廃棄を最小限に抑えるために、私たち若い世代はどのような行動ができるでしょうか。そしてこうした取り組みが世界にどのような影響を与えるのでしょうか。)表1を見ると、マクロな概念とは教科横断的なテーマであり、授業では抽象度合いが高い語が取り扱われていることが確認できる。一方、ミクロな概念とは教科固有の知識であり、マクロな概念と比べて具体性の高い語が取り扱われていることが分かる。ただし、一単元を通底する概念としてマクロな概念を重視すべきなのか、あるいはミクロな概念を重視すべきなのか、といった2つの概念の軽重については言及されていない(International Baccalaureate Organization, 2018)。以上3点の教育哲学を具現化させるための指導方法として、概念理解を深めることにつながるテーマを設定するよう求めている(International Baccalaureate Organization, 2018)。単元では、取り扱うテーマに関して3種類の問いを教師から生徒に投げかけることを最大の特徴としている。3種類の問いはそれぞれ、「事実に関する問い」、「概念的な問い」、「議論を喚起する問い」と名付けられている(Erickson, 2008)。事実に関する問いとは、一般的な事実を確認する問いである。概念的な問いとは、物事や事象の概念への理解を深めさせる問いである。そして議論を喚起する問いとは、人によって意見が分かれるような問いである。Erickson(2008)は、事実に関する問いは一単元につき3〜5つ、概念的な問いは1〜2つ、議論を喚起する問いも1〜2つ投げかけることを指導者に求めている。授業では、それぞれの問いの例として、図1に示すような内容が想定され得る。図1は、「Sharing the planet(地球を共有すること)」というテーマで学習させる場合に想定され得る問いの例である。例えば、事実に関する問いでは、年間の食料廃棄量についての事実を確認させる問いとなっている。概念的な問いではhabits(習慣)という概念に焦点を当て、習慣を教科横断的なテーマ(例)「アイデンティティー」、「自由」「概念的な問い」の例:To what extent is it challenging to modify our habits, given that some argue they are the root cause of food loss and waste?(私たちの習慣が食品ロスや廃棄の根本的な原因であるという意見もある中で、私たちの習慣を修正することはどの程度難しいのでしょうか。)エリクソンによる概念型学習モデルの英語授業での適用表1.マクロな概念とミクロな概念の違いマクロな概念図1.3種類の問いの例(筆者作成)ミクロな概念教科固有の知識例「民族音楽」、「距離」Erickson et al. /遠藤(2017/2020)より引用3

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