70東アジア海域におけるいくつかの「国境地域」の島嶼についてみてきたが、ここから島々を比較する以下のような視点が抽出できる。■対外交流の拠点 外交使節が寄港するなど、対外交流の拠点となること。ただし、通時代的にそのような役割を果たしてきたとは限らず、歴史の中で一時的にそうした役割があったが、現在では活発ではないか、何らかの事情で一時的に途絶えている場合もある。■外部からの攻撃・襲来 倭寇や刀伊の入寇、蒙古襲来のように、外部からの攻撃や襲来を受けること。■防衛の拠点 戦略的な位置にあることから防衛上重視され、軍事基地が設置されたり、砲台が設置されて要塞化すること。■行政上の位置づけと「辺境」支配 「辺境」の島嶼であるがために、特殊な支配を受けること。また、重要な島嶼であるからこそ、地方にあるにもかかわらず中央政府との直接的な関係が深まること。■外部への依存 政治的に帰属する国の「本土」よりも、「国境」を接する外国の方が近接していることで、食糧や物資などを依存すること。■国家の枠組みを超えた人々の活動 「離島」の持つ隔絶性83から、在地勢力や倭寇などの国家の枠組みを超えて活動する(「境界をまたぐ」)人々が往来すること。ただし、中央政府の統制の強化などによってこうした活動が通時代的であったとは限らない。これらを踏まえると、「国境地域」にある島嶼を比較する際に、その表象として顕れる上記のような特徴とともに、「国境離島」にあることでこそ島民が生計を立てることが可能となり、島の社会が存立するということ、すなわち「国境地域」にあることが地域社会を規定しているという視点を持つことが重要であると考えられる。そこで、「「国境地域」に所在し、そのことによって地域社会が大きな影響を受けていた/受けている島嶼」を《国境離島》と仮に定義し、これを分析概念としてさらに様々な島嶼の比較を行いながら今後の検討を進めていきたい。2023年8月末に、金門と台北において調査を実施した。様々な方へのインタビューを行ったが、その中でしばしば語られたのは、金門と台湾との距離感である。金門は中華民国から切り離されるのではないかという不安から民進党政権への不信感が強く、伝統的に国民党が強い土地柄である。また、日常的に厦門との間を行き来している島民も多く、大陸に対して親和的な傾向が強い。2022年に大金門(金門島)と小金門(烈嶼郷)を結ぶ橋が開通したが、厦門と小金門の間4.《国境離島》概念おわりに
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