─ 批判的思考理論と教師の熟達化に着目して ─キーワード:批判的思考、国際バカロレア、概念型学習モデル、知識、熟達化【要 旨】本研究では、リン・エリクソンが提唱した概念型学習モデルを取り上げ、概念型学習モデルがどのような批判的思考指導の方略を採用しているのか、そしてどのように実践で適用され得るのか、の2点について解明することを目的とする。本研究における検証内容と明らかになった事項は次の3点である。第一に、概念型学習モデルで採用されている批判的思考理論を検討した。その結果、概念型学習モデルでは、米国の批判的思考に関する研究者であるリチャード・ポウルが提唱した、対話を中心とした方略を構造化した授業形態であることが確認された。第二に、概念型学習モデルが外国語科の授業でどのように適用され得るのかを整理した。その結果、概念型学習モデルの独自性は、批判的思考を高めることを究極の狙いとし、問いが概念理解の深まりと対話を促す重要な装置として機能している点であることを明らかにした。第三に、概念型学習モデル踏まえた授業を実践する3名の教師らにフォーカスグループインタビューを実施し、モデルを実践でどのように適用させようとしているのかを確かめた。その結果、問への応答の負荷を和らげることで英語での対話を促進させようとしていることや、幅広い知識の領域を取り扱いながら、生徒が常に何かを考えざるを得ない状況を創り出そうと試みていることが明らかになった。なお、今後の研究課題として、ベテラン教師たちの実践知を分析する必要性や、概念型学習モデルにおける教育哲学である「転移」が真に批判的思考育成に重要な事項なのか、といった疑問に答える必要性を挙げた。物事を多面的・多角的な視点から客観的に捉え、社会の中でよりよく生きていく資質・能力は、一般的に批判的思考と呼ばれる。批判的思考には様々な定義があるが(例えばEnnis, 1987: Facion, 1990; McPeck, 1990)、近年では「何を信じ、何を行うのかの決定に焦点を当てた合理的で反省的な思考」(Ennis, 1985, p.10)といった定義を当てはめることが一般的である。批判的思考は、2003年にDeSeCo(Definition and Selection of Competencies: Theoretical and conceptual Foundations)により、キー・コンピテンシーの1つとして位置付けられた。それ以降、国内でも、批判的思考を学校教育で育成する重要性が指摘されるようになった(例えば、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会,2016など)。では、批判的思考はどのように育成され得るのだろうか。批判的思考指導の方略に関するこれまでの研究では、例えばオックスフォード大学の研究チームによって、国際バカロレアの高等学校段階におけるプログラム(International Baccalaureate Diploma Programme以下、IBDPとする)が、批判的思考育成に有意であることが明らかにされている(Hopfenbeck et al., 2020)。IBDPの11.背景と問題設定エリクソンによる概念型学習モデルの英語授業での適用赤塚 祐哉
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