注1)これまで地理教育においては、野外での調査活動について「フィールドワーク」「地域調査」「野外調査」等の名称が用いられてきた。本稿で使用する「フィールドワーク」は、こうした野外での調査活動、エクスカーション(巡検)、社会見学等を含めた「観察・観測・聞取り調査などにより必要な情報を収集する野外での調査活動」全般を指す。2)見学型は、案内者のガイドに従いながら行動し説明を聞くエクスカーション(巡検)に代表されるフィールドワーク。作業型は、案内者の誘導はありつつも生徒が地図作成やインタビューなどの作業に主体的に取り組むフィールドワーク。また、探究型は、生徒自らが課題を設定し、野外での調査活動を通じて主体的に課題の解決を進める探究活動を重視するタイプのフィールドワークである。3)池・福元(2014)のアンケート調査では、フィールドワークを実施中と答えた地理担当教師26名のうち、19名がエクスカーションを実施しているのに対し、生徒主体の地域調査を実施している教師は4名に過ぎなかった(複数回答可)。4)Oost et al.(2011)によれば、スペインではエクスカーションが主体であるほか、ドイツでもエクスカーション等の伝統的なフィールドワークを実施する教員が多いといわれる。また、シンガポールでもエクスカーションの実施率が圧倒的に高いことが報告されている(Chew, 2008, p.318)。5)例えば、Oost et al.(2011)によるアンケート調査によれば、オランダの高校では1日をかけた長時間のフィールドワークが実施される場合が多いが、その一方で半数の教師は「時間不足」を課題として挙げている。6)フィールドワークを実施する上での具体的な留意点については、齋藤・吉田(2022)が詳細なチェックリストを作成している。校・高校での実際の授業における指導経験が不可欠であり、教員就職後の自主的・組織的研修の重要性が高い。しかし、かつては教師の自主的な研修組織がフィールドワークの実践力の習得に大きな役割を果たしていたが、参加する教師の減少等により全国的に活動が縮小傾向にあると言われる9)。ただ、こうした組織的な研修に参加する教師が減少しつつある一方、「地理教材共有サイト」や「地理学習に役立つリンク集」といった教材プラットフォームウェブページのほか、「いとちり」、「GEOLINK」、「地理おた部〜高校地理お助け部〜」といった情報発信ブログ、Facebookやメッセージングアプリslackなどのコミュニティに属して情報交換をしたり、X(旧Twitter)やYouTubeなどネット上で容易に情報を得られるようなチャンネルを利用したりと、交流や情報発信・受信のハードルが下がったことで、教師の側の学び方も多様化しつつある。したがって今後は、従来型の研修だけでなく、フィールドワーク指導に関するコンテンツの発信・共有など、新たな方法での指導力の育成が重要性を増してくるものと考えられる。こうした多方面での取組みを通してフィールドワークの指導力の育成を図って行く必要があろう。[付記]本論文は早稲田大学教育総合研究所研究部会(B-01)「地理教育におけるフィールドワークの指導力育成に関する研究(池俊介)2022−2023年度」の研究成果の一部である。なお、執筆分担は以下の通りである。Ⅰ・Ⅱ章(池)、Ⅲ章−1(吉田)、Ⅲ章−2(齋藤)、Ⅲ章−3(山本)、Ⅴ章(池)。51
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