教育評論第38巻第1号
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師には求められる。とくに作業型・探究型フィールドワークでは、生徒の作業の進展状況や思考のプロセスに応じた教師の適切な助言等のサポートがフィールドワークの成否を左右することが分かった。さらに、探究型フィールドワークでは、生徒の探究活動の方向性を示すためのルーブリックの提示が有効であるという知見も得られた。したがって、フィールドワーク指導の基盤として、地理学習に関する基本的な知識・スキルの習得はもちろんのこと、これらの実践的な指導方法を身に付けることが教師には求められることになる。一方、フィールドワークでは汎用性の高い「一般的コンピテンシー」の育成も重要となる。一般的コンピテンシーには、生徒−生徒、生徒−教師、生徒−インフォーマントの間のコミュニケーションスキル等の社会的コンピテンシーや、自発的に作業・調査を進めるための能力のような個人コンピテンシーなど、非認知的能力を含む多様なコンピテンシーが含まれる(池,2022a,pp.172-173)。これらの一般的コンピテンシーの育成を図ろうとすれば必然的に生徒主導の学習にならざるを得ず、フィールドワークにおいては探究型フィールドワークの重要性が高くなる。今回実施したフィールドワークでは、探究活動における一般的コンピテンシーの重要性については明らかにできたが、一般的コンピテンシーを育成するための具体的な指導方法については十分な検討ができなかった。一般的コンピテンシーの育成は知識・スキル等の地理の専門的コンピテンシーを育成するための前提となるため、これまでもフィールドワーク研究では重視されてきたが8)、今後は一般的コンピテンシーの育成をも重視したフィールドワーク実践のあり方や、その指導力の育成方法について検討してゆく必要があろう。大学の授業におけるフィールドワークの指導力の育成について考察した数少ない研究であるKim (2022, p.65)は、教師志望の大学生を対象としたフィールドワークの指導力を育成するためのモジュールを提示している。このモジュールは、①フィールドワークの意義・類型・研究動向に関する知識の習得、②現地での情報収集やデータの表現等のスキルの習得、③指導者が作成した地元地域のフィールドワークモデルに基づく現地でのエクスカーション、④学生自身による探究型フィールドワークに関するガイドブックの作成、の4つのユニットから構成され、その効果も実証されている。とくにこのモジュールの中核となるのが④の探究型フィールドワークのプラン(ガイドブック)の作成である。これはフィールドワークのプランを個々の学生に作成させることにより実践的指導力を育成しようとする試みであり、巡検のための学習指導案の作成を通じてエクスカーションの指導力の育成を図った山口(1980)、授業に「巡検指導体験」を導入した山口(2012)と同様に、学生に授業づくりを体験させる方法である。こうした指導法は、大学の教科教育法等の授業においても実施が可能であり、効果的な授業方法として注目される。したがって、地理の専門的コンピテンシーについては、こうした授業方法の工夫によって指導力の育成を図ることがある程度は可能である。一方、大学の授業の中で一般的なコンピテンシーを育成するための方法を習得することは、授業時間数の制約もあって現実にはかなり難しい。したがって、生徒同士のコミュニケーション能力等に代表される一般的コンピテンシーの育成に関わる指導力の向上を図るためには、中学502.指導力を育成するための仕組み

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