最後に、調査結果についての発表を行った。発表では、地元で地域活性化に取り組む関係者(伊豆半島ジオガイド池谷氏、株式会社結屋代表取締役川村氏)から講評を頂いた。以上でフィールドワークを終了した。探究型フィールドワークにおいて重要となる指導の要点としては、以下の3点が挙げられる。1点目は、限られた時間の中で探究型フィールドワークを行うためには、教師は事前学習、現地フィールドワークともにルーブリックを示し、学習の方向性を言語化して生徒に共有することが重要である。生徒に無秩序に自由な時間を与えるのではなく、ルーブリックを通じて方向性が定まった状況で高い自由度の学習機会を確保することが教科教育では求められる。生徒はルーブリックを自らの探究活動の参照軸とすることで、個人作業やグループで協働する際に、振り返る参照点が担保され、活動の方向性を適宜確認しながら学習を進めることができる。ルーブリックがうまく機能すれば、生徒は自律的に活動することになり、結果として教師による個別的・具体的な指導の頻度は下がることになる。2点目は、生徒の主体的な活動が軸となる探究型フィールドワークでは、教師は求められた時にのみ指導や助言を行うといった指導姿勢を表明する必要がある。そのためには、生徒が支援と助言を求めやすい教師―生徒の人間関係が前提となるとともに、生徒たちが教師に声掛けがしやすいように物理的・空間的に近くにいる必要がある。3点目は、実際のフィールドにおける、生徒個人のコミュニケーション能力と、グループとしてのコミュニケーションの状況に注目する必要がある。探究型フィールドワークにおける地域調査の成否や学習の深まりに対しては、生徒の知識・技能の習得状況だけではなく、フィールドでの生徒同士のコミュニケーションが大きく影響すると考えられる。その意味では、生徒同士のコミュニケーションを間近で観察し、グループ内での人間関係を把握した上で、コミュニケーションに支障がでた場合には、必要に応じて介入や支援を行い、調整することが教師には求められる。生徒たちが自立した形でフィールドワークに集中して取り組めるよう、教師はフィールドでのコミュニケーション環境の整備に留意する必要がある。前章では、高校生を対象とした見学型・作業型・探究型フィールドワークの実施を通して、フィールドワークで必要とされる指導の内容を具体的に明らかにしようと試みた。池(2022a,pp.172-173)において、筆者らはフィールドワークで育成すべき「専門的コンピテンシー」として地理的知識に関する項目(事象コンピテンシー)と地図・景観観察や思考スキル(方法コンピテンシー)の具体的な項目を挙げたが、いずれのタイプのフィールドワークにおいても具体的な知識やスキル(読図・観察・アンケート調査・インタビュー調査・地図表現など)を育成するための学習場面の設定や、そのための周到な準備が必要であることが分かった。また、実際に生徒に作業・調査を行わせる前の生徒に対するガイダンスの設定や、生徒の安全に対する配慮等も教492)必要とされる指導Ⅳ フィールドワークの指導力の育成に向けた提案1.フィールドワークに必要な指導力
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