教育評論第38巻第1号
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ら、夏目漱石などの文人が逗留した仰空楼・菊屋旅館跡などを見学し、多くの文人を惹きつけてきた修善寺温泉の景観を観察しながら、グループワークの会場であるITJ Base Shuzenjiに戻った。昼食後、学習テーマである「温泉観光地の歴史と未来」を考察するための午後の作業についてのガイダンスを行った。まず1万分の1地形図をグループごとに配布し、凡例をもとに自分たちで土地利用図を作成する「まちなみ調査マップ」の作業について説明した。注意事項として、①実際の建物の区画と地図が異なる場合には自分で地図を直すこと、②観察から判断できない建物は近隣の方々に聞いて確認をすること、③駐車場は建物利用には含めないことを伝えた。また、調査中の土地利用図は下書き用として最低限度の建物利用が分かる程度に留めることも付言した。インタビュー調査用のワークシートも用意し、定性的なデータを集める一方で、情報の信頼度を高めるために最低3軒以上はインタビュー調査を行うように指示した。さらに、「短時間の調査なので自分たちで色々と工夫して下さい」と付け加えることで、チーム内で役割分担し、効率的に作業することを示唆した。説明後、18名の生徒を5つのグループに分け、それぞれのグループにサポーターとして教師・大学院生を配置して1時間程度のフィールドワークを実施した。グループごとに調査対象エリアを分けることで、短時間でも温泉観光地を網羅的に調査できるような学びを設計した。フィールドワーク中は、サポーターには基本的に安全管理に徹し、状況に応じて観察の視点を示したり、問いかけたりするよう依頼し、生徒の自主性を重視した。生徒自身では気付けない視点を教師側から積極的に示すという方法もあるが、そうすると見学型フィールドワーク的になってしまうため、生徒の属性や目的に応じて言葉がけの頻度や具体性を調整する必要がある。筆者がサポートしたグループは性別・出身地が異なる混成グループであったが、最初は東京出身の女子生徒が意欲的にインタビュー調査を行い、地元出身の男子生徒は後ろについていたが、現在地やルートを把握していた地元生徒が途中からグループ内で存在感を示し、終盤にはインタビュー調査も率先して行っていた。とくにインタビュー調査やチームでの協働的作業は、地理の専門的コンピテンシーだけでなく行動力や協調性・主体性などの一般コンピテンシーを育む場としても期待される。フィールドワーク終了後、各チームの担当エリアごとに建物の種類別に色分けしたマーカーシールを貼って土地利用図を作成した。それぞれのチームで凡例が異なることが無いよう、あらかじめ凡例については教師側で用意しておいた。敢えて手作業による地図作製を行ったのは、参加者によってデジタルデバイスの状況が異なり使用が困難であったこともあるが、チームで作図作業を協働的に可視化しながら実施してもらうことを重視したためである。最終的には、各チームで作成した土地利用図を1枚の大きな地図につなぎ合わせ、全チームで1枚の土地利用図を作成した(図1)。なお、デジタル上で共同編集を行う場合には、Google JamboardやGoogle mapプロジェクト機能なども便利である。次に、最初のエクスカーションで学んだ内容に加え、グループ単位のフィールドワークで得られた調査結果を踏まえて、それぞれの施設の分布の特徴を地図から読み取り、「なぜそこにあるのか?」「これからどうなりそうか?」などの問いを立てさせた。今回はあくまで作業が中心のフィールドワークであったが、生徒の学習動機を高めるためには探究型に近いパフォーマンス課43

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