教育評論第38巻第1号
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ドワークを実施している教師の割合は全体の約25%(宮本,2009,p.2)、神奈川県内の高校の地理担当教師(回答者124名)を対象としたアンケート調査では、フィールドワークを実施している教師の割合は21%に過ぎなかった(池・福元,2014,p.19)。こうしたフィールドワークの実施率の低さの原因については、①時間的制約に関する問題、②校外に生徒を引率するための手続きの問題、③科目の必修・選択に関わる問題などが指摘されてきた(池,2022b,p.125)。ただ、こうしたフィールドワークをめぐる実施環境の悪さが実施率の低下の大きな原因となってきたことは事実であるが、フィールドワークの不振の根本的な原因は、地理教育におけるフィールドワークの意義や教育的な価値が教師間で十分に共有されていない点にあると筆者らは考えている。したがって、実施環境の整備はもちろんのこと、教師がフィールドワークの意義についての理解を深め、具体的なフィールドワークの指導法に対する知識・スキルを習得し、フィールドワークを自ら実施しようとするモチベーションを高めるための具体的な仕組みづくりが大きな課題であると言える。こうした状況の中で、筆者らは早稲田大学教育総合研究所の共同研究「地理教育におけるフィールドワークの指導力育成に関する研究」を2022年度から開始し、高校生を対象としたフィールドワーク入門講座の開催によって得られた知見をもとに、地理教育におけるフィールドワーク指導に必要な力量とは何か、指導力を育成するためにはいかなる仕組みづくりが必要か、といった課題について検討してきた。そこで本稿では、まずフィールドワークをめぐる国内外の研究の動向を整理した上で、山本(2022a)で用いられた見学型・作業型・探究型という3つのフィールドワークの類型2)ごとに実施した高校生を対象とするフィールドワークの概要と、それらのフィールドワークで必要とされる具体的な指導内容についてまとめる。それらを踏まえて、フィールドワークの指導力を育成するための仕組みづくりについて提言を試みることにする。これまで世界各国の地理教育においてフィールドワークが実施されてきたが、その原初形態は見学型フィールドワークに求められる。イギリスにおけるフィールドワークの変遷過程を整理したFoskett(1997, p.3)によれば、1960年代に地理学界で起こった「計量革命」の前までは、遠足やキャンプなどに重点が置かれ地理学習の要素が乏しい「探検的アプローチ」のフィールドワークや、団体ツアーの象徴であるクックツアーのように案内者にしたがって地理的事象を見学する「クックツアー・アプローチ」、つまり見学型フィールドワークが主流であった。その後、一世を風靡した計量革命は地理教育にも影響を与え、フィールドワークでも野外調査によるデータ収集や計測・記録が重視されるようになった。さらに、1970年代後半〜1980年代には、人間と環境をめぐる問題が注目される中、探究活動をベースとした課題解決型のフィールドワークの開発が進んだ(Foskett, 1997, p.4)。その結果、近年ではオランダの高校教師を対象とするアンケート調査結果を踏まえて探究型フィールドワークの必要性を論じたOost et al.(2011)、南アフリカの教師志望の大学生を対象として問題解決型のフィールドワークを実践したRaath & Golightly(2017)、38Ⅱ フィールドワークをめぐる研究の動向1.見学型から探究型へ

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