キーワード: フィールドワーク、地理教育、教師教育、探究活動【要 旨】中学校・高校の地理教育におけるフィールドワークの実施率は低いが、その原因の1つはフィールドワークの意義や方法が教師間で十分に共有されていない点にある。そこで筆者らは、高校生を対象として見学型・作業型・探究型の3つのタイプのフィールドワークを実施し、それらの活動を通してフィールドワークの指導に必要とされる知識やスキルについて検討した。その結果、3タイプのフィールドワークにおいて共通して必要とされる地理の専門的コンピテンシーについては、教師志望の学生を対象とする大学の授業においてもフィールドワークのプランの立案や実践等を通じて育成が可能であること、指導経験の重要性が高い一般的コンピテンシーの育成についてはフィールドワークに関する組織的な研修のほか、ネットによる教師間の情報共有を通じた学びの重要性が増していること、などフィールドワークの指導力の育成を図るための知見が得られた。野外科学(フィールドサイエンス)の1つである地理学では、観察・観測・聞取り調査などの野外での調査活動が重視されてきた。とくに近年は、現実の動きを直視し、演繹的思考ではなく帰納的思考によって事の本質を見極めようとする考え方を背景に、地理学を含む人文社会諸科学においてフィールドワークの重要性を再認識する動きが高まっている(村山,2014,p.247)。地理学に基礎を置く地理教育においても、例えば篠原(2001)に代表されるように、これまで多くの研究者によってフィールドワーク1)の重要性が強調されてきた。また、小学校・中学校・高校の学習指導要領においても、これまでほぼ一貫してフィールドワークが重視され続けている。例えば、2017年に告示された現行の学習指導要領においても、中学校では「地域調査の手法」や「地域の在り方」の単元において居住地域を対象とした生徒による調査活動の実施が、また高校の学習指導要領(2018年告示)でも、地理歴史科の必履修科目である「地理総合」において、中項目「生活圏の調査と地域の展望」が「地理総合」の学習の集大成として位置づけられ、生徒の生活圏を対象とした地域調査を行うことが強く期待されている。このように、少なくとも研究や学習指導要領のレベルにおいてはフィールドワークが地理教育にとって不可欠の学習活動であるとの共通認識が存在している。しかしながら、実際の中学校・高校における地理授業のレベルでのフィールドワークの実施率は低く、宮城県内の公立中学校67校(128名)を対象としたアンケート調査によれば、フィール37Ⅰ はじめにあり方に関する試論池 俊介・齋藤 亮次山本 隆太・吉田 裕幸地理教育におけるフィールドワーク指導の
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