5-18.示す表現の型を参照させたり、語句の穴埋めをさせたりしていた。すなわち、生徒の英語熟達度を考慮し、Hattie et al. (2020)が示す知識の型のうち、スキーマ(情報や知識、実際の経験や記憶)の活性化を図る活動を設定している一方、表現の型を示すなど、「文字列」にも焦点を当て、問いへ応答の質を高める指導上の工夫を行うといった熟達化のプロセスを踏んでいたのである。本研究では、概念型学習モデルを概説し、一般の授業との概念の取り扱いの差異や批判的思考との関連を明らかにした。そして、教師らの語りを通して概念型学習モデルと実践への適用を明らかにした。一方、熟達化のプロセスを経て、実践知を得たベテランの教師らがどのように概念型モデルを適用しているのかについては迫り切れていない。そこで今後の研究課題はベテラン教師たちの実践知を分析することである。もう1つの課題は、概念型学習では学んだ知識を転移させることを前提としているが、そもそも転移させることは目標にすることは、真に批判的思考育成に重要な事項なのか、といった疑問に答えることである。なぜならば白水(2012)は学校という場では、学んだ内容について、学校から離れた場でも使えるようにならなければならないという考えが先に立ちがちになる点を指摘し、行き過ぎた教師の転移主義について批判的な立場をとる。その背景として、仮に転移が起こらないのであれば、学校の存在意義自体が問われるからである、と指摘するとともに、転移することを前提とすることは必ずしも学びを深化することとは直結しない可能性を論ずる(白水,2012)。概念型学習モデルでは、学習の内容が転移することが期待されているが、そもそも転移が期待されること自体を疑う必要があるのかもしれない。以上2つの議論が今後の研究課題である。186.今後の研究への示唆参考文献赤塚祐哉(2022)「批判的思考育成を目的とした英語教材開発の試み ─国際バカロレアの批判的思考指導の方略に着目して─」『言語学習と教育言語学2021年度版』早稲田大学情報教育研究所,1-12頁赤塚祐哉,木村光宏,菰田真由美(2022)「国際バカロレアプログラムにおける批判的思考指導モデルの検討:教育学諸理論の関係性と教師の語りに着目して」『早稲田教育評論』36(1),1-20.浅沼茂(2022)「新学習指導要領における『思考力』目標と学習」『立正大学教職教育センター年報』3,小山悟(2019)「学習者の批判的思考を促すコンテントベースの日本語授業 ─ デザイン実験による教授法の開発」『名古屋外国語大学,博士(日本語学・日本語教育学),乙第6号』名古屋外国語大学楠見孝(2012)「実践知と熟達者とは」金井壽宏・楠見孝編『実践知−エキスパートの知性』有斐閣.酒井雅子(2017)『クリティカル・シンキング教育:探究型の思考力と態度を育む』早稲田大学出版部.白水始(2012)「認知科学と学習科学における知識の転移」『人工知能学会誌』27(4),347–358.進藤聡彦,麻柄啓一,伏見陽児(2006)「誤概念の修正に有効な反証事例の使用方略」『教育心理学研究』36(2),162-173.鈴木淳子(2022)『調査的面接の技法』ナカニシヤ出版.中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会(2016)『時期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ』参照https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004gaiyou/1377051.htm(2023年9月18日閲覧)
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