教育評論第38巻第1号
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─ 批判的思考理論と教師の熟達化に着目して ─オープンクエスチョンとは、特定の答えがない開かれた問いを指し、概念型学習モデルの「議論を喚起する問い」と対応する。すなわちC教諭は、議論を喚起する問いへの応答を英語で行わせたいものの十分に機能しておらず、差し当たり型を示すことで課題解決につながるのではないか、と感じていることが分かる。最後にA教諭は、1単元の中でどのくらいの数の概念を取り扱っているのかB教諭に尋ね、B教諭はマクロな概念を1つだけ取り扱っていることを説明した。一方、A教諭は「一つのテーマでずっと続けるっていう形ではなくて、ユニットごとっていうよりは、バランスでいろいろなものが1週間の中にも展開されるっていう形」が理想的であることを語った。無論、Language Bでは単元の中で取り扱う概念の数は定められていないし、1つの題材(テーマ)について単元を通して取り扱うことを前提としている。A教諭の語りから示唆されることは、実践の場では単元の中で複数の概念が並行して取り扱われていることを示唆しており、複数の3種類の問いがパッケージとして提示されている可能性を示している。概念型学習モデルでは、取り扱う概念と題材(テーマ)が密接である点を第2章でも論じたが、実践でも、密接であることが確認された。一方で、語られた手立てが、どのような流れで授業に組み込まれているのかについては疑問に残る。そこで、セッション3では、指導の流れを捉えることとした。セッション3では、概念型学習モデルを踏まえた授業の流れと指導方略の2点を明らかにすることを目的とした。目的の実現のため、3名の教師それぞれに、実際にどのような授業を行うのか、他の参加者を生徒役に見立ててデモンストレーションを行ってもらい、必要に応じて内容の説明をしてもらった。各教師のデモンストレーション・説明の後に、それぞれ20分間で自由に語ってもらった。まずC教諭によるデモンストレーションを実施した。C教諭は、単元で取り扱う概念として「creativity(創造性)」を取り上げ、題材(テーマ)を「human ingenuity(人間の独創性)」に設定した。3種類の問いのうち、事実に関する問いとして「What is art?」を提示し「Define the word.」と指示をした。その後、写真を見せながら「Classify pictures as art and not art.」と指示した。そして事実に関する問いへの応答を英語で行わせるため「In my opinion, this could be art because…」の型を示し、生徒役を務める2名の教師に対して、型に沿って自分の意見・考えを記述するよう指示した。型を示しながら授業を展開することについてC教諭は「実際はホワイトボードに(型となる英文を)書いて、ちょっと大きいポストイットを(グループ単位で)みんなに渡して」といった指導上の工夫を行っているとの説明を付け加えた。このようにC教諭は、「事実に関する問い」への応答を求める学習活動を行う際、グループ全員の意見を可視化し、互いの意見や考えの違いを把握することで、結果としてLanguage Bの言語特有の役割についての概念である「variation(違い)」につながるような工夫を行っていることが確認できる。すなわち、C教諭は「creativity(創造性)」という核となる概念のみ取り扱っているという認識であるが、実際には複数の概念が同エリクソンによる概念型学習モデルの英語授業での適用154.2.3.セッション3(具体的な指導方法・指導方略の解明)

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