C教諭の指導上の工夫は、口頭で応答させる前に書かせてから発表させるという手順をとっている点である。そして別の工夫として「How do you define art?」といった事実に関する問いへの応答に対する生徒の負担感を和らげるために「いろいろなもの、写真を見せて、アートだ、アートじゃないっていうふうに、生徒たちに議論をしてもらいます。」と語った。すなわち、C教諭の語りから、授業では具体物を見せながら、単純な英文で応答できるような指導方略をとっている点に特徴を見出すことができる。C教諭の指導計画についての説明を聞いたB教諭は「結構アートっていうテーマ特性もあって、TOK感があるなっていうのが感じた印象」、「何となく話を盛り上げようとすると、そういう方向性になるのかなっていうのは、共通点を感じましたね」と語った。B教諭の語りに反応する形でA教諭も「すごくTOKっぽい英語の授業だなっていう印象を私ももちました。」と感想を語った。なお、TOKとは、IBDPのコア授業である「Theory of knowledge: TOK」を指す。TOKは教科横断的な授業であるため、概念型学習モデルにおけるミクロな概念よりもマクロな概念を取り扱う傾向が強い。すなわち、C教諭が示した実践例はどちらかといえば教科固有のミクロな概念ではなく、マクロな概念を取り扱うことで対話を促す指導形態が取られていると言える。では、他の教諭はどのような概念を取り上げ、どのような工夫を行っているのだろうか。B教諭が示した概念は「connection(つながり)」である。そして「(議論を喚起する問いは)What are the benefits of volunteering in your local community? だったので、これを生徒3人組かな、3人1組で話し合わせたりしてる」と3人1グループとなって、議論を喚起する問いを英語で話し合う実践を行うことを語った。B教諭の説明を聞いたC教諭は「なかなか生徒の英語力的なところもあって、オープンクエスチョンだと、(型を示さなければ)生徒もそこで止まってしまうというのもあった」と語った。をノートに書かせます。読む前に、まずノートに書かせて、読ませます。How do you define ‘art’? What is purpose of art? 実際に言わせたりとかしてます。How should be literature be taught and how can you learn to appreciate it. これはどっちかっていうとHLの内容にはなるんですけれども、SLでも少し触れます。」と説明した。C教諭が語る「ガイディングクエスチョンズ」とは、授業のはじめに教師から投げかけられる、題材について考えるためのきっかけとなる問いを指す。概念理解を深める問いであり、概念型学習モデルで取り扱われる3種類の問いと同義である。そして「HL」や「SL」とは、「Language B」では上級レベル(Higher Level: HL)と標準レベル(Standard Level: SL)に分かれて授業を受講するため、それぞれのレベルを指す。1つめの問い「How do you define ‘art’?」は、生徒らのこれまでの経験を基に応答させる「事実に関する問い」、2つめの「What is purpose of art?」はpurposeという概念に焦点を当てた「概念的な問い」、そして3つめの「How should be literature be taught and how can you learn to appreciate it.」は「議論を喚起する問い」にそれぞれ対応していると考えられる。加えてC教諭は、「‘I think this is art because…’ という型を提示して、生徒らが英語で自分の考えを述べ、自分の意見を正当化する」ことができるよう、英文の型を示すなどの支援を行うことで、議論が白熱した際に日本語が使用されてしまう現状を打開しようと工夫していることを語った。14
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