教育評論第38巻第1号
177/208

なった」28と記載されており、山武郡では、新制中学校の新教育において「地域社会の要求や必要に答える教育」を行うことを方針としており、特別教育活動は新教育の「申し子」として重要視されたことが窺える。そして、山武郡では、教員による研究会が設置されており、この研究会では「生徒指導・自治指導・問題児指導等がとりあげられ、意欲的な研究がされていった」とした上で、さらに「中学校においても特別教育活動の在り方、生徒会・クラブ活動についての研究が日源中・平野丘中・東金中・その他各校で実践研究された」とされており、山武郡の各中学校で特別教育活動に関する実践的な研究がされていたことがわかる29。研究会の研究問題の傾向としては「1.道徳教育の実践をめぐっての問題、2.学級集団づくりの問題、3.児童会・生徒会・特活と生活指導の問題、4.教科と生活指導とのかかわりあいの問題、5.子どもの自主性・社会性を育てる問題」といったように、学校教育に関わる幅広い領域の研究がされていたことがわかる30。山武郡では一つの学校だけではなく、複数の学校で研究活動が行われたこと、また、特別教育活動が他の学校教育における問題と関連づけて研究されていたことからも、特別教育活動を重視していたと言えるであろう。このように、千葉県の教育実践を見ると、県が示した教育指針・方針に従いながらも、地域で教員が研究会を開催するなど、地域独自の積極的な動きを見せていたことがわかった。そして、一つの学校が独自の動きを見せると、それが県内の他の学校にも影響を与えていたと見ることができた。以上、本稿では、新制中学校の教育実践について、地域の事例に着目しながら、戦後の新制中学校において、どのような教育を実施することが目標とされ、また、各学校においては実際にどのような教育が実施されたのかを特別教育活動と道徳教育を中心として分析してきた。以下、本稿で分析した内容について確認しておきたい。第一に、戦後の新教育において、その指針や方針がどのようなものとして示されたのかを指導書の分析を通じて検討した。戦前の反省に立ち、新しい理念のもとに構想された新制中学校であるが故に、その教育を進展させるにあたって多くの指導書が刊行されていた。これらの指導書を通じて、男女共学での学校経営の方法など、様々な観点から新制中学校の理想的なあり方が指針・方針として具体的に明示されていた様相が明らかになった。第二に、本研究で収集した国立国会図書館での新制中学校における書籍の内容について分析した。前述したように、戦後の新教育においては、新制中学校の教育全般に関する指導書等が多数刊行されていたが、それとともに現場の教育実践、特に個別の教科や領域についても、どのようなものであるべきかという書籍が多く刊行されていたことがわかった。1950年代後半以降には、特別教育活動や道徳教育などの新しい教科をどのような形で教授するのか、また、いかなる教育方針・指針として教育実践を行うのかが指導書として示されていたことがわかった。第三に、実際に、各地域の新制中学校ではどのような教育実践が行われていたのかを分析した。本稿では、それら新教育の中でも特別活動と道徳教育について焦点を当てて分析したが、各171おわりに

元のページ  ../index.html#177

このブックを見る