会においても収集した資料である、兵庫師範学校女子部附属中学校『新制中学校に於ける教育上の諸問題』(1948年)に注目して、新制中学校においてどのような理念や方針を重視して実践を展開しようとしたのか、その内実を報告する。同書は兵庫師範学校女子部附属中学校刊行による戦後の学校経営上の諸問題について言及したものであり、例えば教員組織については「量と共に質が問題となる。教員の有する教養程度である。一般には出身学校などによって形式的に判断するのを通例としている。然しこれは必ずしも充分ではない。私は寧ろ広い一般的教養の上に立ったその学校の為の教職的訓練を適格に受けている者が望ましいかと思う」6と述べられており、新教育を担う教員は、一定程度の教養を持ち合わせ、適格な教職者としての訓練を受けたに人材が必要であるとしている。また「現実の社会環境と不良化防止について」という項目では、実際の学校教育において、どのような方針で教育を行うかについて、主に戦後の民主社会で重視された「男女共学」の視点から言及している。そこでは「性的感情の現れて来る青年前期にいたり急に共学の型をとるのであるから彼等の指導にあたっては共学の趣旨に反せぬ様細心の注意を致すべきである」として、男女別学を基本とした戦前の教育からの転換期ならではの留意点を示している7。そして、男女共学については、まず「男女各生徒間の理解と同情を培い、真の自由を身につけるように指導し、互いに協力せしめる事が根本方針である」8とされている。さらに、男女共学に関する教育的指導については、学校行事や学級行事といった機会において実施すべきだとされている。例えばそれは遠足や、運動会といった機会において指導すべきであると述べられているのである9。さらに、自治的な活動を行うに際しても、生徒会活動などでは、男女共学を重視しながら、それが実施されるべきであるとされており、その際の指導についても留意すべきであると述べられている10。このように『新制中学校に於ける教育上の諸問題』について見てみると、師範学校女子部附属中学校が刊行しているという事情もあると考えられるが、戦後の新教育の中で大きな変化であった男女共学について、特に着目していたと見ることが出来る。また、学校内部だけでなく、父兄や地域とも協力することで、男女共学という新しい教育形態に関する諸問題を解決するように指示されていたことがわかった。以上、本項目では、本研究で収集した新制中学校関係の図書の一覧を作成し、その中から本稿に関連する内容を取り上げた。前述したように、戦後新教育においては、その指導を徹底したものにするために、指導書等が多く出版された。また、戦後教育改革期の学習指導要領においては、児童・生徒の生活、とりわけ地域生活を基盤に教育目的を設定し、教育課程を構築することが求められたが、指導書や参考書のレベルにおいても、こうした理念が明示されていたことが確認できた。そして、次節で述べるように、指導書・参考書をもとに教育活動を展開した各学校の実践にも一定の影響を与え、1940年代後半から1950年代後半にかけての地域性を生かした活動の創出に繋がったと考えることができる。さらに、1950年代後半以降、戦後の新教育における各教科や教科外の活動に対する個別の指導165(2)指導書にみる特別教育活動と道徳の指導指針・方法
元のページ ../index.html#171