教育評論第38巻第1号
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162本稿は、上述の研究部会の成果の一端を報告するものである。なお、研究部会としては活動を完了したが、現時点においても個々人の新制中学校に関する研究を継続中のため、本報告は途中経過を含んでいる。また、本報告では、主として新制中学校における教科外活動及び特別教育活動と、道徳教育の実践を中心に論じる。その理由としては、教科外活動及び特別教育活動、さらに、道徳の指導は、戦後の各地域との関連性の中で独自性を帯びていったと考えることができるからである。さらに、特別教育活動と道徳の指導の関連性を見ることで、各地域における新制中学校において、生徒たちにどのような能力を身に付けさせようとしていたのかがより鮮明になると考えられる。なお、本報告の対象時期は主に1950年代後半とする。教育政策的には「逆コース」の時期であり、1958年には学習指導要領が改訂され、中央集権的・画一的教育課程へ方向転換がされるが、学習指導要領教育実践という点では40年代後半、50年代初頭に試みられた新教育実践の結実期と捉えることもできる時期である。戦後新教育実践の実態を究明するという本部会の目的から考察するべき時期として選択した。本研究部会の研究は、新制中学校と学校が設置された地域の関係、とりわけ、その地域でいかなる教育実践が行われていたのか、また、どのようなことが課題となっていたのかを、収集した資料によって明らかにするものであった。その研究意義としては以下の2つを挙げる。第一の意義としては、新制中学校においてどのような教育実践が行われていたのか、そして、それらの教育実践はどのような教育理念・方針を以て実施されていたのかを明らかにする。第二の意義としては、各地域の新制中学校における教育について、それぞれの教育がどのような経緯を経て、いかなる独自性を獲得するに至ったのかを明らかにすることである。本研究の先行研究としては高瀬雅弘「戦後開拓地における学校と地域社会(2) ─教師たちから見た1950年代の新制中学校と開拓地─」2がある。この研究では、主に青森県において、校舎が建設されたばかりの新制中学校で生徒がどのような教育を受けていたのかが考察されている。また、伊藤日出男「初期新制中学校教育の状況と戦後の地域文化活動 ─秋田県における1事例から─」3がある。こちらは秋田県の一地域における新制中学校における学校行事や生徒による演劇活動といった事例について、どのような教育実践があったのかを分析している。先行研究においては、主に個別の地域に着目して、どのような教育実践があったのかが考察されているが、本研究では複数の地域に着目し、資料を収集して、その教育実践を総体的に考察しようとする点で一定の独自性があると言える。以上のような先行研究の状況を踏まえて、各地域における新制中学校の教育実践に着目し、その上で各地域の教育実践にどのような独自性があったのかを明らかにすることを試みた。具体的な調査対象・方法は次の通りである。まず、本研究では、地域性の視点から新制中学校の実践を探るため、複数地域を研究対象として設定し調査を進めることとした。2021年度は、これらの地域から、東京都荒川区と愛知県名古屋市を中心に半田市・新城市、神奈川県小田原市、千葉県旧源村などを選出し資料の収集と分析をおこなった。ただし、資料収集のための現地調査も検討し1、研究の目的・意義及び先行研究概要と調査対象・方法

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