には、事故発生率と外部データとの関連の分析(e.g.,岩下,2018)も必要であろう。結びに本研究の課題と展望を述べる。まず、本研究では部活動の参加数あたりの事故発生率を算出したが、この際、各部活動での活動時間数の差異は考慮していない。部活動の活動時間数に甚だしい差異は無いという仮定はできる(内田,2010a)ものの、活動時間はリスクの変動に影響するため、活動時間あたりの事故発生数の算出を行なった場合には各部活動でのリスクの別側面が見える可能性がある。特に、中学校は活動時間の減少が進んでいるため、時間を補正した場合にはリスクは維持されている、あるいは増加しているという傾向があるかもしれない。また、事故発生時の被害の重大性について、本研究では記録のある医療費5000円以上の事故を対象としているが、現場では給付申請に至らない軽微な事故も数多くあるものと考えられる。それに関連して、各学校で全ての医療費5000円以上の事故が給付対象として申請されているという確証もない。これらの点で、本研究の結果は運動部活動の事故リスクの完全な実態を捉えたものではないことに留意されたい。総じて、今後は活動時間や軽微な事故も踏まえた分析を行なっていく必要があると考えられる。本研究は日本スポーツ振興センター・全国中学校体育連盟・日本高等学校体育連盟・日本高等学校野球連盟の公開データを用いて著者の責任において行われたものであり、公開元である各団体は本研究の内容に責任を持たない。本研究はJSPS科研費19K22027の助成を受けた。157付 記謝 辞文 献藤澤健幸・渡邉正樹(2021)高等学校の柔道部活動における負傷事故の特徴:災害共済給付データの計量テキスト分析から.体育学研究.66,33-46.今津孝次郎・内田良・中島葉子・田川隆博ほか(2006)3.「学校安全」への社会学的アプローチ[I]:リスクと政策.日本教育社会学会大会発表要旨集録,113-118.石榑清司(1996)学校管理下の傷害発生と学校環境要因.日本衛生学雑誌,50(6),1067-1076.岩下剛(2014)東京都区部・市部小中学校教室の事故データを用いた事故リスクに関する検討 学校における事故と屋外気象条件の関係に関する研究 その2.日本建築学会環境系論文集,79(703),813-819.岩下剛(2015)小中学校事故データを用いた熱中症リスクに関する検討 学校における事故と屋外気象条件の関係に関する研究 その3.日本建築学会環境系論文集,80(712),551-558.岩下剛(2018)中学高校部活動時の事故データを用いた熱中症リスクに関する検討 学校における事故と屋外気象条件の関係に関する研究 その4.日本建築学会環境系論文集,83(743),49-56.岩下剛・得永尚樹(2014)東京都,名古屋市,大阪市小学校の傷害データを用いた事故リスクに関する基礎的検討 学校における事故と屋外気象条件の関係に関する研究 その1.日本建築学会環境系論文集,79(696),173-180.木下冨雄(2002)リスク認知の構造とその国際比較.安全工学,41(6),356-363.
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