管理下の災害」の他に、死亡・障害事故の状況をまとめた「学校等事故事例検索データベース」を公開している(日本スポーツ振興センター,2023)。同データベースには死亡・障害事故の概況が記録されており、学校の安全向上に向けた知見が潜在している可能性がある(満下ほか,2023)。リスクの高い部活動や減少傾向にある部活動を対象として臨床的アプローチを適用することで、リスク増加あるいは減少につながる要因を特定できるかもしれない。そうした今後の検討において、本研究の結果はどのような部活動を対象とすべきかを特定できるため、資料的価値があるものと考えられる。例えば、高等学校におけるラグビーフットボール部は高リスクかつ増加傾向にある部活動として、ホッケー部は減少傾向が認められる部活動として注目すべきであると言える。ただし、「学校の管理下の災害」や「学校等事故事例検索データベース」などは、2次分析によって学校安全に向けた知見が得られる(内田,2010b)一方で、あくまで本邦の全体的な傾向を示すものであり、それぞれの個別の学校での傾向を直接予測しない。部活動の事故発生率が上昇傾向にある中学校も、減少傾向にある高等学校もあり得る。こうした各学校での動向の違いは全体的な統計からは可視化されない。したがって、部活動におけるリスクの全容や、その変動を規定する要因を解明するには、各学校単位での集計・分析も求められる。各学校単位での分析は、それらを集約した時に学校安全に向けた知見が得られるというだけでなく、各学校のリスクの実態を把握した上での学校安全計画の策定につながる。殆どの学校には校務分掌において学校安全の担当者が位置付けられている(文部科学省,2017)。例えば、学校安全の担当者がリスクの視点で所属校の分析を行うことで、各学校単位での把握につながり、延いては全容の解明につながるかもしれない。学校の事故リスクは、近年いくつか研究が行われてきた。例えば、内田(2010a,2010b)、内田(2016)、岩下(2014,2015,2018)、岩下・得永(2014)などがリスクの検討を行っている。しかし、部活動も含めて学校における様々な場面に生じるリスクについて、その定量的把握はあまり多くは行われてこなかった。したがって、その方法論が十分に構築されているとは言い難い状況にある。だが、文部科学省(2022,p.4)が策定した「第3次学校安全推進に関する計画」によれば、「事故情報や学校の取組状況などデータを活用し学校安全を「見える化」する」ことが方向性として定められているところであり、また、本研究でも用いた日本スポーツ振興センターに集約されているデータの活用などが想定されている(文部科学省,2022,p.20)。こうした今後の学校安全の展開において、学校安全の「見える化」としてのリスクの把握は欠かせない。そのためにも学校のリスクを把握する方法論の確立が必要である。その点から、本研究は部活動を対象としてリスクを把握する試みの1つであり、また、方法論としての疫学的アプローチの有用性を指摘するものとして位置付けられる。しかし一方で、本研究のアプローチは、リスクを把握するという観点からは有用であったものの、リスクの変動を規定する要因を検討するという側面においては制約があることもわかった。例えば、国際大会の影響や活動時間変化が要因として考えられたものの、これらは考察に留まり、実証的な知見を得たとは言い難い。これは事故データと参加者データのみを分析対象とすることの限界であると言える。本論文で得た仮説的な要因が実際に影響しているかを検証するため156
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