154活動時間の減少は中学校でのみ見られるので、高等学校において多くの部活動でのリスク増加を説明できず、更に異なる理由があると考えられる。高等学校での部活動は、発達段階に応じて運動の強度が上がることが予想される。加えて、中学校での活動時間の減少に鑑みれば、活動日数について進学した際に相対的に増加すると言える。これらのことを踏まえると、多くの生徒は受験のため等で部活動を一度引退し運動から遠のいている上で、進学した際に運動強度や活動日数が上がることで、身体が適応していないうちに事故が発生するリスクが上がるのかもしれない。実際、運動部活動における事故数について、引退がある3年生を除けば中学校では2年生が、高等学校では1年生が最も多い傾向にある(日本スポーツ振興センター,2019,2020)。本研究では対象としていないものの、事故に遭った生徒の学年、事故発生の時期などの側面からも検討を行う必要がある。クラスタ分析の結果、中学校・高等学校の共に主要なクラスタとして「非接触的部活動」「接触的部活動」が得られた。分散分析の結果、両学校共に全ての年度でクラスタの単純主効果が高い効果量で認められたため、これらクラスタの違いは人や器具との接触の有無と共に、リスクの差異が反映されていると考えられる。人や器具との接触は事故のリスク要因である(日本スポーツ振興センター,2022)が、本研究が得たクラスタ別の事故発生率を見ると、平均でおよそ3〜4倍程度事故発生率が異なることがわかった。また、分析分析の結果では、中学校における「接触的部活動」での2018・2019年度の事故発生率は他年度より低い傾向にあったことから、平均で見ると、先述した中学校における事故発生率の減少傾向は「接触的部活動」に共通に現れていると言える。他方で、高等学校では「ラグビーフットボール部」という単一の部活動から構成されるクラスタが形成された。「ラグビーフットボール部」は、いずれの年度においても群を抜いて高い事故発生率であった。そのため、他のクラスタから独立していたと考えられる。「ラグビーフットボール部」はとりわけリスクの高い活動であることに加えて、増加傾向にあったことから、リスクが年々高まっている状況であると言える。「ラグビーフットボール部」の年次的推移では、検定は行っていないため視察に留まるが、2011年度〜2014年度は36件程度で止まっているのが2015年度に3件分程度上昇し、更に2019年度にも2件分程度上昇するという、4年おきの特徴的な増加傾向が見られた。2015年度と2019年度は共にラグビーフットボールワールドカップの開催された年度である。事故発生率増加の背景には、ワールドカップ等の国際的な競技大会による盛況のため、部活動も活性化し、運動強度が高まっている可能性が考えられる。各部活動を個別に見た時では、中学校において最も事故発生率が高いのは柔道部であったが、柔道についても全体と同様に減少傾向にあった。村田ら(2021)は、2003〜2018年度の中学校・高等学校での柔道部での死亡事故リスクを算出し、頭部外傷による死亡リスクは減少しているものの頚部外傷による死亡リスクについては維持されていることを報告している。本研究の結果からは、死亡事故に限らず負傷・疾病事故全体を対象として事故発生率を算出した場合では減少傾向にあると言える。一方、高等学校において唯一有意な減少傾向が認められたのがホッケー部であり、9年間で事故発生率について15%程度の減少が見られた。ホッケー部において事故が減少する理由の1つと
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