教育評論第38巻第1号
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カッコ内は残差、*) p<.05中学校高等学校(−1.89)(−1.89)(−1.36)(−0.82)(2.36*)(0.24)(2.36*)(0.77)(0.24)本研究の目的は、運動部活動の年次別事故発生率を算出することで、部活動のリスクの様相を把握し、その近年の動向を検討することにあった。各年度の事故数を体育連盟加盟者数で除し、100人あたりの事故発生率を算出したところ、全体的な傾向として、中学校では、スキー部およびスケート部以外の全ての活動で事故発生率の減少傾向が認められた。対して、高等学校では、多くの活動では増加傾向があるという傾向が見出された。また、クラスタ分析の結果、中学校では「非接触的部活動」「接触的部活動」に分類され、高等学校ではそれらに「ラグビーフットボール部」を加えた分類となった。これらのクラスタでは、全体的な傾向として、中学校の「接触的部活動」では2018・2019年度がそれ以前よりも事故発生率が低い傾向があった。一方高等学校では、「非接触的部活動」「接触的部活動」の共に2015年度頃の事故発生率が比較的高い傾向であった。更にピークの分析では、中学校では特定の傾向は認められなかった一方で、高等学校では2015年と2017年にピークが集中している傾向があった。全体的な傾向として、事故発生率は中学校では下降傾向、高等学校ではわずかではあるが上昇傾向があった。中学校と高等学校での傾向の違いを説明できる理由に、活動時間の変化が挙げられる。その事象への曝露時間はリスク変動を規定する要因の1つである。文部科学省とスポーツ庁は2017年1月6日に、中学校は週2日、高等学校は週1日を参考に適切な休養日を設定することを全国教育委員会に通知している(毎日新聞,2017)。そして2018年に、スポーツ庁(2018a)は「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を示した。同ガイドラインは、中学校の運動部を対象として週2日以上の休養日の設定を基本とすることを求めるものである。同ガイドラインが示されたことで、中学校では2017年度以降に週2日の休養日設定が進んだと推察される。実際、日本体育協会(2014)および日本スポーツ協会(2021)が行った調査を参照すると、部活動の1週間の活動日数について、2014年度の調査では中学校・高等学校共に「週6日(中学校=60.5%,高等学校=62.1%)」が最も多い。対して、2021年度の調査での1週間における休養日の日数については、中学校では「週2日(66.0%)」が最も多く、高等学校では「週1日(48.2%)」となっている。つまり、近年にかけて中学校では週6日実施から週5日実施へと移行が進んでいるのに対して、高等学校では週6日実施が依然として多数派であると言える。このことから、2017年度頃から中学校でのリスク減少には活動時間の減少が背景にあると考えられる。概算ではあるが、週6日の活動が1日少なくなれば全体の活動時間は約17%程度減少することになるので、中学校において事故発生率が10〜20%程度減少することは妥当であると考えられる。15320114.考 察20122013201420152016201720182019Table3 9年間の事故発生率のピークの分布450232100001284854

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