(National Research Council, 1978)」が代表的である。社会科学的な定義としては、「生命の安全や健康、資産や環境に、危険や傷害など望ましくない事象をもたらす可能性ないし不確実性(木下,2002)」などが用いられる。いずれの定義においても、リスクは出来事の発生可能性や不確実さを捉えた概念であると言える。リスクの程度を評価することで、その高低に応じた予防対策を講じることができる。すなわち、正確なリスクの把握が適切なリスクマネジメントにつながると言える。146これまでの学校経営では、リスクの把握にはあまり関心がなかったことが指摘される。此松ら(2005)は、従来の学校の危機管理においては、リスクを「雑音」のように捉え、それを排除することによる静態的な経営が志向されてきたとしている。また、村越(2017)は、定常時からの逸脱としての危機の発生は、非常に多くの児童生徒が共同生活を営む学校教育との相性が悪いことを指摘し、そうした学校風土において「想定外の事態」が生じる可能性を論考している。これらの指摘に示されるように、学校はその風土からリスクの想定と把握があまり行われていなかったことが窺える。しかし、今後の科学的知見に基づいた部活動指導での安全を考える上では、リスクの把握は必須である。運動部活動のリスクが高いことは、事故数から考えても明らかなことである。だが、実際にはどの程度のリスクがあるのか、また、そうしたリスクは部活動の種類によっても異なるのか、そして、どういった要因が関連してリスクが変動するのかといった問題は不明瞭である。今津ら(2005)や内田(2010a)が指摘するように、これまでの学校の安全対策は重大な事件・事故がトリガーとなり、たとえリスクの低い事象であっても対策に過剰なコストが支払われてきた。こうした事件・事故衝動型の安全対策から脱却し、科学的知見に基づいた安全対策(内田,2010a;スポーツ庁,2018a)へと転換していくには、対象となる活動のリスクを把握することが第一歩であろう。したがって、学校の活動の中でもとりわけ事故の多い運動部活動のリスクを把握し、分析することは、政策的な観点や、現場の実践の観点でのリスクマネジメントにおいて有益であると考えられる。部活動のリスクを把握する研究としては、体罰(暴力・暴言)については高峰ら(2016)がある。高峰らは運動部活動参加者を対象に体罰の経験率を算出することで、部活動の体罰のリスク算出を試みた。更に、リスクが性別や運動種別などの要因によってどう変動するかを分析している。他方、事故のリスクについては、これまであまり多く検討されているとは言えない。その中で内田(2010b)は、8種類の部活動について死亡生徒数と部活動参加生徒数から10万人あたりの死亡生徒数を算出することで各部活動に潜在する死亡リスクを特定し、その危険性を指摘している。内田の分析は部活動の事故データに対する分析の必要性を指摘する点で意義がある。一方で、部活動の種類が限定されている点と、死亡リスクのみを扱っていることから、運動部活動全体でのリスクを把握したものとは言い難い。総じて、運動部活動の事故リスクについては未だ十分な検討がなされていないのが現状であると考えられる。一方で、事故実数の分析から運動部活動での事故実態を把握する試みも行われている。検討が多いのは柔道(内田,2011;藤澤・渡邉,2021;村田ら,2021)であり、実際に死亡数や事故数が多い部活動である。これらの研究は部活動のそれぞれでの事故実態の特徴を捉える点で意義の
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