教育評論第38巻第1号
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キーワード:リスク評価、事故発生率、体育的部活動【要 旨】学校において運動部活動は事故が極めて多い活動である。したがって、安全対策の優先度が高い活動と言える。しかしながら、これまでの学校安全においては、実際に部活動のリスクはどの程度であり、それが増加あるいは減少しているのか、その変動の要因は何であるかといったリスク分析はあまり行われてこなかった。本研究では、中学校・高等学校の部活動を対象に、疫学的アプローチによって近年の事故リスクにはどのような実態があるのかを明らかにすることで、そのリスクを把握することを試みる。日本スポーツ振興センター「学校の管理下の災害」に示された各部活動別事故数のデータと日本中学校体育連盟・全国高等学校体育連盟に示された各部活動の加盟者数のデータを用いて、2011〜2019年の各年度で部活動別に100人あたりの事故発生率を算出した。算出の結果として、中学校ではどの年度でも柔道部、高等学校ではラグビーフットボール部の事故発生率が高かった。Cochran-Armitage検定を各部活動別に行なった結果、中学校はスキー部・スケート部を除き全ての活動でリスクの減少傾向が見られた。対して、高等学校は反対に多くの活動で増加傾向にあることが見出された。また、クラスタ分析の結果、中学校では部活動は「非接触的部活動」「接触的部活動」の2つに、高等学校ではそれに「ラグビーフットボール部」を加えた3つに分類された。ピークの分布を分析した結果、中学校では特定の傾向は見られなかったが高等学校では2015・2017年度に集中している傾向があった。これらの検討から、全体的な動向として、事故のリスクについて中学校では活動時間比で見れば変化していない可能性が、高等学校では増加している可能性が指摘された。また、クラスタの特徴や個別の部活動のリスクの変動に影響を与えた要因について考察がなされた。以上の点を踏まえて、学校のリスクを把握する方法としての疫学的アプローチの有用性と制約が議論された。運動部活動は心身の両面において教育的意義の高い活動である(スポーツ庁,2018a)。その一方で、学校の活動の中でも事故が生じるリスクが極めて高い。諸学校に災害共済給付を行い、その給付状況をまとめている日本スポーツ振興センター(2022a)によれば、中学校において最も事故数が多い場面は「体育的部活動(113,857件)」であり、全体の45%程度を占める。更に、高等学校でも「体育的部活動(120,665件)」は最も多い場面であり、全体の57%程度を占めている。これらの統計が示すように、運動部活動は、学校の安全対策において最も優先度の高い活動の1つであると言える。安全対策においてリスクの実態把握は重要な課題である。リスクには様々な定義があり、例えば、リスクマネジメントの国際規格ISO31000では「目的に対する不確かさの影響(日本規格協会,2019)」とされる。また、工学的な定義としては「出来事の発生時の重大性と発生確率の積1451.序 論近年の運動部活動における事故リスクの現状─疫学的アプローチによる年次的推移の分析─満下 健太

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