ように、大学側が主体となって戦略的に推し進めているEAP/EMIコースであるが、多様な視点から組織的に取り組み、より良い授業づくりを目指さなくては足元が揺らぐ懸念がある。コース教材と指導言語の両方を総合的に理解しているTAは、指導教員と履修学生を助ける多面的な役割を担っている。授業計画の補助、個別指導の実施、ディスカッションの指導、課題に対する建設的なフィードバックの提供など、その役割は多岐にわたる。TAは親しみやすい指導者として、言語特有の質問に答えたり、学業上の課題を指導したりすることで、学生がEMIコースの複雑な問題に対処できるようなサポートが可能である。さらに、TAの存在は、学生が教科の理解を深めるための対話に参加できる、能動的な学習環境を促進する。TAは、その貢献を通じて、学生の言語能力、内容理解力、総合的な学業達成度を高め、EMIコースの効果に大きく寄与できると考える。文部科学省の統計要覧が示すように、少子化の中にあっても大学在籍者数については現在のところ一定数を保ちつつ大学進学率は伸びており、大学入学者の入学時における能力的個人差も広がっていることが予想される。そのような状況の中「廣中レポート」として知られる2000年6月に文部省高等教育局で出された報告書は、「大学における学生生活の充実方策:学生の立場に立った大学づくりを目指し」、「より身近な支援者」としての学生アシスタントの活用を提唱している。ピア・サポートの立場を活かし、今後の日本での大学院生数の減少傾向および学部生の人数の動向や今後予想される学部生の層の多様化・更なる国際化などを踏まえた上で、SAの更なる活用の検討を含め、大学の組織的対応が急がれる。本稿のレビューにより、EAP/EMI授業のタスク等に伴う困難と併せて、同授業形態が構造的に学生へともたらす複雑な問題点や情意面も踏まえた上で、どのようなサポートが必要で、SA/TAがどのように関われるかを考えていく必要が示唆された。更には、SA/TA制度は、faculty development (FD)の観点から、授業担当教員、履修学生、アシスタントに従事する大学院生および学部生といった複数視点からの研究の有効性も示唆された。以上を踏まえ、EAP/EMIコースへのSA/TA制度の適用への提言として、以下の3点が挙げられる。1)当該授業においてどのようなサポートが必要であるかニーズ分析を実施すること、2)現在のSA/TAの活用実態やその効果について、受講生および担当教員に加えSA/TAへのアンケート等を通して適切に把握すること、3)SA/TAに対する定期的なトレーニングとフィードバックの提供を通じて、その能力向上を支援することである。以上3点に加えて、特定の大学あるいは学部の実践的な効果検証を行う場合には、利害関係者に対する横断的な調査を同時に行うことが大切であることから、今後の研究や実践において、SA/TA制度の効果的な運用方法を探求するべく、組織的に検討することが期待される。学生アシスタント(SA)とティーチング・アシスタント(TA)の両者は、日本の大学における英語による専門教育(EMI)コースの推進において極めて重要な役割を担っている。語学力と教科の知識を備えたこれらの人材は、言語的な障壁を克服し、内容の理解を深め、より包括的で豊かな学修環境を育むために、教室内のみならず、教室の枠を超えて必要不可欠なサポートを提供し得る存在である。彼らの主体的な協力はEAP/EMIプログラムの充実化に貢献し、最終的には学生に、グローバル化した社会の複雑な状況を乗り切るために必要な知識やスキル、自己効139
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