教育評論第38巻第1号
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138全体に共通する問題〈スペイン■(Doiz et al., 2012);サポートはEAPに向けたものというより、一般の英語科目にむけたものである〈香港■(Evans & Green, 2007);EMIの教室外でのサポートシステムがない〈インドネシア■(Ibrahim, 2001);ESLのサポートはあるが、EFLコースでのサポートが欠如している・英語に触れる機会がかぎられるEFLにこそサポートが必要〈韓国■(Joe & Lee, 2012);EAPのカリキュラムは効果的に学術的内容を扱っていない〈トルコ■(Kirkögz, 2009);サポート不足の原因は資金面にある〈オランダ〉(Mellion, 2008)。以上の記述から、外国語としての英語(EFL)環境にこそサポートが必要である点、プレゼンテーションスキルなどアウトプット時のサポートに必要性、教室外でのサポートの可能性が示唆されている。また、一般科目での英語とは異なるEAP/EMIに特化したサポートも必要であることも指摘される。大学運営側としては、サポートのための財政的援助の体制を整えることが求められる。本章では、ここまで論じてきた日本での学生アシスタント(SA)/教育アシスタント(TA)システムの取り組みの経緯や現況、英語教科での試行、更には先行研究により指摘される様々な国と地域で認識されるEAP/EMIでの困難さを踏まえ、今後の日本でのアカデミック英語(EAP)および英語による専門科目(EMI)におけるSA/TAの活用を考察する。当初、アメリカの大学のTA 制度を規範として導入された日本のTA制度であるが、アメリカとは異なる形で独自にTA 制度が運用されてきた(荻野、2022)。アメリカの大学での同制度が、大学院生が研究活動を続けるための財政的援助や、大学教員養成の観点から組織的に運用されるのに対し、日本での同制度は、大学・大学院における「教育内容や方法の改革といった文脈から提起されたもの」(北野、2006、p. 85)であり、筑波大学での試行(筑波大学教育計画室、1988、1990)でもわかるように、授業の活性化や履修学生の能力の向上を主な目的とし運用されてきた。このように授業支援の側面が強調される日本のTA制度の文脈において、言語と専門科目の内容の理解という二重の負荷を学生に課していることの問題点が指摘されるEAP/EMIで授業支援・教育支援を担うSA/TAの存在は意義があると考える。EAP/EMI授業で履修学生が感じる困難さはさまざまであることも先行研究で明らかになっており、授業担当教員とは異なる立場でのアプローチができるという点でもSA/TAの存在は有効である。本稿の第2章第4節で概観してきたように、各国と地域でのEAP/EMIの授業で生じる課題は多様である。そのような中、「学生の多様な能力や特定の要求に配慮されておらず応じられていない」、「学生ならびに教員に対する支援はほとんどない」といった報告には、早急に手立てを講じる必要があると考えられる。特に注目したいのは、「EAP/EMIのサポートにおける課題」の頁で挙げられる点で、「サポートはEAPに向けたものというより、一般の英語科目にむけたものである」、「EMIの教室外でのサポートシステムがない」、「EFLコースでのサポートが欠如している」といった報告は、EAP/EMIに特化したサポートの在り方、あるいは、SA/TAの養成といった視点が今後の日本でも必要となる可能性を示唆する。「サポート不足の原因は資金面が大きい」という報告もある5.考察および結論:SA/TAによるEAP/EMI受講生支援の可能性

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