教育評論第38巻第1号
141/208

本節では、EAP/EMIでのSA/TAの活用を考える上で、EAP/EMIプログラムの背景を概観した上で、履修学生が直面する困難についての先行研究に焦点を当てる。当初ヨーロッパの大学のカリキュラムにおいて盛んに取り入れられたEMIは、近年、台湾、日本といった東アジアおよび東南アジアで急速に広がりを見せている(Dearden, 2014; Richards & Pun, 2021)。そこには、国際化社会への対応のみならず、社会全体の少子高齢化に対する大学の生き残り戦略もあり、国内のニーズへ依存するのではなく、多様な学生へ対応するという大学の方策でもある(奥田他、2021)。日本でのEMIコースの設置は、大学にとっても国や地域の政策による大型資金の提供が受けられる機会であり6、各種大学ランキングにおける国際性指標、学生募集の面からも利点があるとみなされていることも挙げられる。一方で、カリキュラム改革には複雑なプロセスを要し、さまざまな文脈でのEMIの実施に関する評価には綿密な調査が必要で、同プログラムの目標達成の度合いや成否の判断は容易ではないとされる(Galloway & Ruegg, 2020)。なお、本学でEAP/EMIプログラムを導入している教育学部英語英文学科でのカリキュラム改革の経緯に関しては、Harada(2017)を参照されたい。以上のようなEMIを取り巻く環境や背景は、一見、本稿のTA/SA制度とは直接的関係性は小さいように思われるが、実際には、これら全ての要因は学習者が感じる授業での困難や適応の難しさと無縁ではない。特にMcCarthyが結論で挙げた英語圏文化での授業進行、学生に期待される授業態度といった英語能力以外の要素は、EMI授業においても日本の学生が戸惑う点であり、適切な助言や援助が必要な場合が想定される。次節では、日本の大学の更なる国際化の可能性を踏まえ、日本以外の国と地域に目を向け、ヨーロッパおよびアジア各国で確認されるEMIでの課題に関して、Willams (2015)の体系的文献レビュー論文の資料を基に1)学生および教員の言語能力、2)教育的環境の差異による要求、および3)EMI、の3つの観点で省察する。パーグローバル大学創生支援事業」(SGU)(文部科学省)1354.諸外国にみるEAP/EMI の問題と課題4.1.学生および教員の言語能力に関する課題McCarthy (2019)は、日本におけるEMIプログラムが成果を得るためにFDが果たすべき役割という視点から考察を行っている。その中で、非英語母語話者である学生および教員の英語力の向上が学術的な英語でのコミュニケーションに必要であることは当然であるが、本来EMIは専門的な内容を学習することが目的であること、更には、EMIは学生にとって文化的多様性の理解のための重要な機会であることを強調している。特に、彼は結論の中で、日本やその他アジアの教師主導型(teacher-centered)の教育環境で過ごしてきた学生は、多くの英語圏の国々で実施される学生主体(student-centered)の授業の進め方や学生に求められる批判的思考(critical thinking)に慣れておらず、それらを育む機会としてEMI授業を捉える必要性を唱えている。Willams (2015)のEMIに関する体系的文献レビューから、まず、学生および教員の言語能力(language proficiency)に関する記述内容を以下に要約する。対象となる文献は2001年から2013年6 2009年「国際化拠点整備事業」(G30)、2012年「グローバル人材育成推進事業」ならびに2014年「スー

元のページ  ../index.html#141

このブックを見る