教育評論第38巻第1号
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134最後の総評として、以下のように記されている。「今回の試行が大きな成功をおさめたことにより、今後TAを積極的に活用していくため展望がえられた。本学における授業の質を高め、また語学のように、ともすればマンネ リ化しやすい地道な努力を要する科目に、活気と緊張感を生み出すために、今後、他の 科目を含めて、より長期的計画の下にTA制度を導入していくことが望まれる」(p. 36)。実際、この提言通り、2年後の平成元年(1989年)には、英語に加え、1学期にはドイツ語、中国語、2学期には国語、情報処理、総合科目が加わった。時間差があったのは、特別経費の補助を新たに得る期間であったことが報告されている。しかしながら、それ以外の科目でのTA制度運用については、授業運営・展開に対する不案内による教員、TA、学生双方に心理的ためらいがある場合が確認された点、あるいは、予算枠などいくつかの要因があり、全科目でのTA制度実施には至らなかったことも報告されている。約35年前に筑波大学が一般英語の授業でTAの活用を試行したのは、表4の目的の項目にあるように「英語の授業の活性化を図り、学生により高度の語学訓練を施す」(筑波大学教育計画室、1988、1990)であるとする内容以上のことは記されていないが、一般英語科目であることから、複数の学類、学群の学生が対象となる可能性は考えられる。「授業の活性化」ということを実施目的の一つとしており、当時の一般英語科目は「地道な努力を要する」ある意味、面白みのない科目と考えられていたことも理由かもしれない。あるいは、当初の業務内容に加えてTAが教員との会話のロールプレイのような役割を果たしたとあることから、コミュニケーション活動が行われる可能性を考慮したのかもしれない。30年以上前の一般英語でのTA制度の試みから得られる知見ではあるが、EAP/EMIでのTA制度の導入を考える上で参考になる点は多い。更には、ここで特筆すべきは、筑波大学が綿密に計画を立てTA制度の検証を実証実験的に行っている点である。また、アンケート調査についても、同じアンケート内容を、学生、TA、教員と利害関係者すべてに行い、トライアンギュレーションの手法を取っている点が特徴的である。紙面の都合上、アンケート項目や詳細のアンケート結果は記述できないが、TA制度の効果の検証の手法として大いに参考になる試みであると評価できる。TA試行の結果については、アンケート結果から、「全般に極めて大きな成果が得られた」(p. 36)とあり、具体的には、①学生の出席率の向上、②学生が予習復習を十分に行った、③授業に活気が生まれた、などの「優れた効果」があったと報告される。報告書では、TAは主として小試験の採点補助者として用いられたにすぎなかったが、TAのお陰で毎回小試験を確実に実行することができたことから上記のような効果が得られたと分析されている。上記①から③以外の効果として、一部の英語IIの授業でTAが教員と英語で話す「対話者」としての役割を果たしたことで授業が活気付き、大きな指導効果を生み出した、とある。また、TA自身が採点作業の補助および授業参加により教授法を学ぶ機会となった、と報告された。追記として、TA導入による問題点、難点は一切認められない旨の内容が試行終了後の教員およびTAからのアンケートで確認されたとある。

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