教育評論第38巻第1号
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─ 批判的思考理論と教師の熟達化に着目して ─では、第二の疑問である、問いを通して他者の意見・考えに触れたり、試行錯誤したりする指導は、どのような批判的思考指導に係る理論に基づいているのだろうか。概念型学習モデルの理論的背景の解明を試みた浅沼(2022)は「ポウルの批判的思考を『概念型思考』というより精緻な指導案作りへとマニュアル化した」(浅沼,2022, p.11)ものが概念型学習モデルの実態であると説明する。ポウルとは、米国の批判的思考研究者リチャード・ポウル(Richard William Paul, 1937-2015)のことであり、問いを核とした対話を行う授業によって、学習者の批判的思考が育成され得ることを主張した人物である(酒井,2017;Paul, 1987)。浅沼(2022)は概念型学習モデルを「リチャード・ポウルなどの『批判的思考』のグループが打ちだした批判的思考の授業案の規準をよりまとめた枠組みに整理」(p.11)したものであると説明し、「事実、概念、議論というカテゴリーすなわち、探究の枠組みを構造化することによって、思考の枠組みのルーブリック化を図ることを目指している」(p.12)とポウルの理論を具現化したものであると論ずる。そして「概念的思考とは、いわば、批判的思考を行動目標化し、ルーブリック化するという形」(浅沼,p.12)であると断定している。以上から、第二の疑問に対する回答は、ポウルの対話を軸とした批判的思考指導に関する理論に基づいていると考えられる。第2章の議論をまとめれば、次の通りとなる。第一に、概念型学習モデルは批判的思考育成に係る複数の理論と符合している点である。第二に、3種類の問い(事実、概念、議論)への応答といった指導方略を採用し、着想・考え、スキーマ、メンタルモデルといった3つの知識の領域(Hattie et al., 2020)の拡張をめざしている点である。そして、知識の領域の拡張を目指すにあたり、リチャード・ポウルの対話を中心とした批判的思考育成に係る方略が核として採用された授業モデルである点である。では、概念型学習モデルは授業でどのような形で適用され、学習者の批判的思考を高めようとしているのだろうか。本章ではIBDPにおける外国語科の授業に着目し、第1節で概念型学習モデルが外国語科でどのように適用すべきと考えられているのかを整理する。そして第2節では、現行学習指導要領に基づく外国語授業と概念型学習モデルに基づく外国語授業の差異を明らかにする。エリクソンによる概念型学習モデルの英語授業での適用72.4.批判的思考指導に係る教育理論との関連2.5.概念型学習モデルにおける理論的背景のまとめ3.外国語科(英語)における概念型学習モデル3.1.外国語科(英語)における概念型学習モデルの適用IBDPの外国科目は「Language B」という科目名称で呼ばれており、第二言語あるいは外国語として言語を学ぶことを目的とする科目である。当該科目の指導方法は「Subject Guide」と呼ばれる文書(日本の学習指導要領解説に相当する文書)で規定されており、科目でどのように概念型学習モデルを取り扱うかを明示している唯一の公式資料である。そこで、本節では、Subject

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