6例(Hattie et al., 2020, pp.195-206)を基に筆者作成ると表現する。ところが概念型学習モデルは技能や事実理解に加え、概念理解を付け足した3次元的な指導方略であると表現し、独自性を強調する(Erickson et al. /遠藤,2017/2020)。その証左として、Erickson(2008)においては誤概念を修正させることについての意義や目的は見当たらず、概念を転移可能な知識を深めるための装置としてみなしていることが確認できる。換言すれば、一般的な授業では技能の向上と事実理解の総量を増やしていくことを最大の特徴とするが、概念型学習モデルでは、技能と事実理解の総量を増やしたうえで、身に付けた技能や理解した内容を授業とは離れた場で活用(転移)させる装置として機能させようとしていると言える。他方、Erickson(2008)の概念型学習モデルにおいては、それでも知識をどのように定義しているのかは曖昧である。そこで、概念型学習モデルにおいて取り扱われている知識の領域は何か、を特定するため、学習科学を専門分野とするHattie et al. (2020)が論ずる知識の6つの型(表3)を借用し、知識の領域の特定を試みた。知識の型感覚的認識視覚や聴覚等といった感覚や経験値から得られるもの記憶できるような情報や、連想・電話番号や掛け算九九文字列着想・考えこれまでの知に、新たな知が上乗せされ、ひとかたまりの情報として表されるもの特定の単語から、情報や知、経験や記憶のかたまりが引き出されるもの・概念理解既に知っている内容を基に、仮定や架空の思考をするといった、概念理解の深化学びや経験を基に、各文脈において、適切な手段や方法を知っていることスキーマメンタルモデル(スキーマの作用)手続き的知識・形や様式・生地をほどよい硬さまで練るタイミング・歌詞・ オーストラリアの首都はキャンベラである。・EmmaはMarkと結婚して3人の子供がいる。レストランとは、メニューがあり、お金を払えば食事ができ、店員がいる場所のこと。より人気のあるレストランにするためには、どのような経営戦略が必要なのだろうか。・土地を測量し、面積を求める。・タイヤの交換の仕方・クレームへの対処方法表3.知識の6つの型内容Hattie et al. (2020)では、知識の型を表3に示す6つに大別している。2章1節で示した概念型学習における3種類の問い(事実に関する問い、概念的な問い、議論を喚起する問い)との対応では、表3の着想・考えが「事実に関する問い」、スキーマが「概念的な問い」、メンタルモデルが議論を「喚起する問い」と符合する(表3の黒枠内)。一方、概念型学習モデルにおける知識は、表3に示す感覚的認識、文字列、手続き的知識にはほとんど符合していない。すなわち、概念型学習モデルに基づく授業における知識とは、①これまでの知に、新たな知を上乗せさせることで、ひとかたまりの情報として処理することを促し(着想・考え)、②特定の単語から、情報や知、経験や記憶のかたまりが引き出されるよう支援し(スキーマ)、③知っている内容を基に、仮定や架空の思考をする(メンタルモデル)といった、3つの知識の領域であると判断できる。
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