─ 批判的思考理論と教師の熟達化に着目して ─が重要であるとするが、ひとくちに知識と言っても、知識という語が指し示す範囲は幅広い(Hattie et al., 2020)。それゆえに、概念型学習モデルではどのような知識を得ることを目的としているのか、という疑問である。第二に、問いを通して他者の意見・考えに触れたり、試行錯誤したりする指導は、どのような理論的背景に基づいているのか、といった点である。そこで次節で前者の疑問を、第4節で後者の疑問を紐解いていく。本節では、第一の疑問である、取り扱う知識の範囲について検討する。概念型学習モデルは概念を取り扱うことにより批判的思考を高める学習モデルである。一方、そもそも概念型学習モデルに依拠した授業でない一般的な授業においても、学習者の概念理解を深め、知識の幅を拡げることを目的とする授業が行われてきたはずである。換言すれば、概念を取り扱うこと自体は、教育の場では伝統的に行われている行為ということである。だとすれば、概念型学習モデルにおける概念の取り扱いには、どのような独自性が見いだせるのだろうか。そこで、一般的な授業と概念型学習モデルにおける概念の取り扱い係る差異を示したものが表2である。進藤ら(2006)によれば、一般的な授業では、学習者が自然現象や社会現象等についての事実を理解し、自分なりの考えをもつことを目指すような授業設計がなされている、と説明する。そして進藤ら(2006)は学習者の誤った考え・信念を誤概念と呼び、授業の究極的な目的は誤概念を修正しながら新たな知識を構築するプロセスであると論じる。一方、Erickson(2008)の概念型学習モデルの概念に対する捉え方は異なる。新藤ら(2006)が論じるような一般的な指導方略を、技能と事実理解から構成される2次元的な指導モデルであ①事実に基づくと思われる情報をクリティカルに検証する能力②新しい学習を既存の知識に関連付ける能力③物事のパターンとつながりを見出す能力④概念レベルで重要な理解を引き出す能力⑤エビデンスに基づいて理解の真実性を評価する能力⑥理解を時または状況を超えて転移させる能力⑦ 概念的理解を想像力豊かに利用して問題を解決し、新しいプロダクト、プロセス、またはアイデアを発明する能力図3. 概念型学習を通して身につく7つの能力(Erickson et al. /遠藤,2017/2020, p.31より引用、下線部は筆者による)表2.一般的な授業と概念型学習モデルにおける概念の取り扱いの差異概念の取り扱われ方目的自然現象や社会現象等について自分なりの考えをもつ役割「誤概念」を修正することによって、新たな知識を構築することエリクソンによる概念型学習モデルの英語授業での適用一般的な授業概念型学習モデルにおける授業概念を転移可能な装置として見做すマクロな概念とミクロな概念を取り扱い、学習者の批判的思考を深めること(進藤ら,2006; Erickson, 2008を基に筆者作成)52.3.取り扱う知識の範囲
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