教育評論第38巻第1号
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4変えることがどの程度難しいかどうかを問うている。議論を喚起する問いでは、食料廃棄を減らすための行動が世界にどのような影響を与え得るのかを考えさせる問いとなっている。以上の概念型学習モデルの特徴をまとめれば、図2の通りとなる。概念型学習モデルの土台は、ジョン・デューイの反省的思考、エドワード・ソーンダイクの「転移」、マクロな概念とミクロな概念が存在する、といった教育哲学である。そして、「事実に関する問い」、「概念的な問い」、「議論を喚起する問い」の3種類の問いへの応答を求める教育方法を採用している点である。これらの教育哲学と教育方法に基づき、批判的思考を高めようとする教育モデルであると言える。以上、概念型学習モデルの特徴を概説した。では、概念型学習モデルで採用されている3種類の問いへの応答によって、学習者らは本当に批判的思考を深められるのだろうか。図3に示す内容であると主張している(図3)。批判的思考指導に係る教育理論と符号する記述は、図3の①「事実に基づくと思われる情報をクリティカルに検証する能力」、⑤「エビデンスに基づいて理解の真実性を評価する能力」である。①及び⑤の能力は批判的思考の研究者ら(例えば、道田,2013;Ennis, 1987など)が批判的思考の必須要件として共通して論じており、①と⑤が批判的思考そのものを表していると判断できる。国内の批判的思考研究を先導する道田(2007)は、批判的思考育成のためには知識を得ること、他者の意見や考えに触れること、試行錯誤することの3点が重要であることを論じている。概念型学習モデルとの対応では、3種類の問いへの応答を通して、学習者は知識を得ること、級友の意見・考えに出会うこと、議論する過程で最もらしい答えの導出を試みることと確かに結びついている。従って、概念型学習モデルは批判的思考育成に必要な要素を網羅していると判断できる。一方、いくつかの疑問が残る。第一に、道田(2007)では批判的思考育成には知識を得ること2.2.批判的思考育成と概念型学習モデルの対応図2.批判的思考育成のための概念型学習モデルの概略(Erickson, 2008を基に筆者作成)Erickson et al. /遠藤(2017/2020)は概念型学習モデルを通して身に付くとされる能力について、

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